5月18日(日)、小野明良のアマチュア・キックボクシング第2戦。 前回と同じ団体J−NETWORK主催の大会。 前回は、チョイワルファイトと銘打たれた、年齢45歳〜50歳のカテゴリーにエントリーしたのだが、一般Cリーグに回された。 今回は、最初から一般Cリーグにエントリーした。 5月2日(金) ジムの会長に、 「これお願いします」 と、エントリーの申し込み用紙を渡す。 「わかりました。頑張りましょう」 と会長。 5月9日(金) 確か、昨日の木曜日がエントリーの締切日。 夕方、私の携帯電話がなる。 「私、J−NETWORKのXXXと申しますが・・・・」 何故か、主催者事務局から電話が入る。何故かどこと無く歯切れが悪い喋り方をする。 「小野さん・・・えー・、今回、ライトヘビー級80s以下でエントリーされてますよね」 「はい」 「えーとですね・・・、同じクラスの人が今回居なくてデスね・・・」 「えぇ」 「ヘビー級の方とやっていただけないかと・・・・・、一番体重が近いのがその方で・・・・」 「え?ヘビー級で、か?」 「えぇ・・・・その方はですね・・・・資料だと・・・182cmで93sある方・・・・なんですが・・・・」 「そんな重たい人とか!」 「えぇ・・・、ど、どうでしょう・・か・・・」 恐る恐る、お伺いを立てるように話す事務局の担当者。 「はははは、―――良いよ」 「よろしいですか!」 「ははは、良いよ。誰とでもやるよ。チェ・ホンマン(*218cm、160sのファイター)でも構わねぇから」 「あっはっはっは、いや、有り難う御座います」 私の返答を聞いて、一気に明るい声になる担当者。 「ちなみに年齢は、小野さんと近くて、43歳の方です」 「あ、そう」 「グローブは、普段16オンスなんですが、ハンデで小野さんは14オンスでやっていただきますので」 「わかりました」 なんか、今回も妙な展開になってきたな。 ま、やることは変わらないんだ。 ところで私は、前回の試合における自分のミスに気がついた。前回私は、 「だれの挑戦でも受ける。かかって来んかい」 的精神で試合に臨んだ。それで、良いと思っていた。 しかし違うのだ。 この精神は、待ちであり、受けの気持ちなのだ。 48歳と言う年齢でキックボクシングをやろうという男には、そんな偉そうに悠長に構えている余裕など無いのだ。 肉体ばかりでなく、いつの間にか、精神が老化していたのだ。 常に、挑戦者たらねばいけないのだ。 年齢を重ねたせいかどうかはわからないが、知らず知らずの内に気持ちが待ちに、守りに入っていたのだ。 そう。 思い出した。 若かりし頃は、そんな気持ちで戦ってはいなかった。 私の精神は思い出した。 今回は、そのミスを修正して試合に臨む。攻めだ。 「ぶっ殺す。往生せんかい」 【5月18日(日)試合当日】 今回も、カミさんと子供二人が応援に来る。 08:50 大森駅改札待ち合わせ。 今回、Y’ZDジムからは、私とE選手が出場。 09:00 会場大森ゴールドジム、開場。 着替えて、身体を動かす。 リングに上がると、パイプ椅子の観客席にO氏とT氏のコンビを発見。応援有り難う御座います。 09:30 計量、78.6s。 相手がヘビー級のため、77sまで落とした体重を増量して試合に臨む。 T氏も応援に来てくれる。有り難う御座います。 09:50 開会式。 開会式に並ばずミット打ちをしている選手が、主催者に怒られる。 10:10 試合開始。 ここから、オートメーションの流れ作業のように試合が次から次に行われる。 それでなくては、午後3時までに80試合をこなす事は出来ない。 チョイワルファイト、女子Cリーグ、そしていよいよ男子Cリーグ。 10:25 第8試合 Cリーグ ヘビー級 1分X2ラウンド。 小野 明良(Y'ZD GYM)VS 隈本正二郎(日神会神想流空手道) 先程、会場で見かけた大柄な選手が、やはり相手の隈田選手だった。 シャドーボクシングで、カウンターを取る動きを沢山練習していた人だ。 アナウンス「赤コーナーY'ZD GYM・小野選手。青コーナー日神会神想流空手道・隈本選手」 リング上でレフリーがマウスピースとファールカップのチェック。 ゴ ン グ「カーーーーン!」 お互い軽くグローブを合わせる。いまだこの意味を正確に私は把握していない。が、しかし、みんなやるから私もやる。挨拶代わりだな。 小 野(カウンター狙いか。イッチョ突っ掛けてみるか) 私が大きく右ストレートを突いていくと、案の定スウェーバックして大きく体重を後ろに下げ返しの右ストレート、右フックを繰り出す隈田選手。頭の脇をパンチがかすめていくが、当たったわけでもないのに、パンチの重さを感じさせる。 小 野(やっぱ、パンチ結構重いな) 前傾して前に出てくる隈田選手にジャブを当てる。 隈田選手は、それを嫌って後傾気味になり、カウンター狙いを隠そうとしない。 カウンター狙いがわかっているからには、ローやボディから崩して・・・と素早く上手く反応できない事に自身の老化を感じる。 何度か私が突っ掛け隈田選手がカウンターを返してくる。ような動きの繰り返し。 ゴ ン グ「カーーーン」 両者コーナーに帰る。 アナウンス「現在ポイントは、赤・小野選手5ポイント、青・隈田選手4ポイントです」 今回の試合は、前回より回りが見えていると思う。ポイントコールも大体聞こえている。 トレーナーの福富さんが、 福 富「今の感じで、良いです。ローからパンチ、パンチからローに繋げましょう」 Cリーグ・ルールの採点方法を紹介します。 主審は進行のみで採点権を持たない。 四角いリングの本部席のある一辺を除いたリングサイド3辺に一人ずつ、3人の副審が居て、有効と思う打撃に赤か青の旗を揚げる。 その上がった旗1本が一ポイントで、10ポイント先に累積した方が勝者となるのである。 つまり、一つの打撃で3人が旗を上げれば最高3ポイントを獲得する事が出来る。 判定基準はちょっとあやふやで、何であれが?というような事も多々あるが、それはお互い様。 アナウンス「ラスト・ラウンド」 ゴ ン グ「カーーーン」 隈田選手は、後傾気味のカウンター狙いの姿勢を崩さない。 ローから崩しを狙う私。試合は地味になるがしょうがない。 アナウンス「赤・7ポイント」 ローキックでポイントが加算される。 アナウンス「赤・8ポイント」 さらに私のローキックが入り、旗が複数上がる。 小 野(よし) アナウンス「赤・9ポイント」 小 野(?) 直後、隈田選手のローキックに旗が複数揚がる。 直後、隈田選手のローキックに旗が複数上がる。 ゴ ン グ「カーーーン」 アナウンス「試合終了です」 小 野(うむ、終わったな) 本部集計が、私のポイントを計算するのに時間がかかったな、と思いながらコーナーに帰りかけていた私は、そのアナウンスを聞いて我が耳を疑った。 アナウンス「青・10ポイントで、青・隈田選手の勝ちです」 アナウンスの意味を理解するのにわずかな間。 小 野「―――えッ??」 結構大きな声を発し、振り返ってしまった。 別に、意図的にアピールしたいとか言う事ではなく、心底意外な事で自然に声が出た。 振り返った私の目には、勝者としてレフリーに手を上げられている隈田選手の姿が飛び込んできた。 (隈田選手のローキックの前に試合は終了していたろ) ―――しかし、結果は隈田選手の勝利。 試合終了。 気を取り直し隈田選手と挨拶し、相手コーナーにも挨拶。 リングを降りる。 私は、前回の試合の時と同様、 「負けて、スミマセンでした」 と、セコンドに付いてくれた龍野会長と福富トレーナーに謝っていた。 しかし今回の私は、何ともいえない不完全燃焼的モヤモヤ感が充満していた。 しかし結果は、結果。 受け止めるしかない。 龍野会長の顔も福富トレーナーの顔も私と同じ気持ち、と私は感じた。どうだろう。 その後、第53試合Bリーグに出場する同門E選手を応援。 E選手、快勝。おめでとう。 「お疲れ様でした。今日は有り難う御座いました。負けてスミマセンでした。私達ここで失礼しますので」 「いやー、勝ってましたよ、あれは」 皆さん、優しい言葉をかけて下さる。感謝。 小野一家撤収。 昼飯に何年ぶりかで回転寿司を食べ、帰宅。 帰りの電車の中でカミさんに、 「家に帰ったら反省会だ。ビデオ見られるようにしてくれ」 家でカミさんが回したビデオ再生。 !? 再び再生。 !?!? 三たび再生。 !!!!! カミさんを呼ぶ。 「おい、ちょっと観てくれ」 「何?」 「自分の眼だけじゃなくて、人の眼でも確認してもらわないと」 「どうしたの?」 「数え間違えているんだ、旗の数を。―――良く観ろ、ここで、この時点で俺が勝っているんだ―――やっぱり・・・・」 「ホントだ」 巻き戻して、同じところを再生。 「―――あのポイントは、有効だとか無効だとか言う主観論じゃなくて、単純に上がった旗のカウントミス、集計ミスで俺の勝ちを見落としているんだ、本部席が」 「ホントだ」 「―――偶然にも、こうして証明できるビデオがあるから抗議するかな」 「事実は、向うに知らせるべきなんじゃない」 「そうだな。このビデオに写っている真実を元に抗議しよう」 そこには、本来カウントされるべき私の10ポイント目を、数え落としている状況がはっきりと映っていた。 つまり、その時点で試合終了10対4で私が勝利するべき状況が記録されているのだった。 その後、龍野会長に連絡を取り事情を説明。福富トレーナーと会長に家までご足労願い、ビデオの確認作業を行う。 全員一致で、集計ミスの存在を認識確認。 誤審。 ジムを通して抗議する事を龍野会長、福富トレーナーと確認。 若き会長は、会長である事の自負と責任感を十二分ににじませ、 「私が、責任を持って抗議します」 と頼もしい一言。 つづく |