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2004年12月08日(水)・「自由が丘事件簿」
 昨日の深夜、正確には今日8日の未明、仕事を終え近所の居酒屋で上さんと2人で焼酎を煽っていた時の事。

 いきなり外で、
「キャーーーーーー!」
 という女性の声。さらに、
「キャーーーー、キャーーーー」

 私は、思った。
(随分盛り上がっているグループだな)

 私の座っている場所からは外は、見えない。
 カミサンは、小窓から外を見てる。そして、
「おとうさん、あれ・・・」
 再び外で、
「キャーーーー、助けてーーー助けてください!!!」

 私は立ち上がり、カミサンのところの小窓から外をのぞいた。
 周りの店のネオンや看板で、深夜とはいえその場は明るい。

 そこには、横向きに倒れている派手目の女性。年は20代前半くらい。必死に抵抗している。
 のしかかる男性。やはり20代前半くらいか、うちのバイトのKに少し似ている。もぞもぞと鈍い動き。

(酔っ払ったカップルの痴話喧嘩か?)
(でも暴力はイカンな)
(これ以上ひどくなるなら、止めてやるかな)
(????でも、何で女性のスカートが乱れてるの?)

 歩いてきた男性二人組みが
「何やってんだ!」
「おい!止めろよ!」

 のしかかっていたK似男は、ふらふらと立ち上がり、歩いてその場を去ろうとする。しかし何故か走らない。
 女性の無事を確認して、後を追う男性二人。

 私の飲んでいた居酒屋から、男性客二人とマスターが心の中に「太陽に吠えろ」の追跡のテーマソングを流しながら飛び出していった。
 お店のマスター、マスター刑事47歳。
 サラリーマン風の一人客、サラリーマン刑事45歳。
 ビデオ屋の店員風の一人客、ビデオ刑事43歳。
 〜〜チャチャチャッチャチャチャッチャ、チャチャチャッチャチャチャチャ〜〜〜〜

 店には私とカミサンだけが残り、酒を飲みながら小窓から外を監視。
 中腰で飲みながらの覗きは、いや監視は疲れるが、これも好奇心いや一般市民の正義感から来る治安維持のためのささやかな協力だ。
 しかし治安維持のための協力ならば飛び出すべきか?
 いやいや「太陽に吠えろ」でもそうだったが、ボスはいつも部屋で電話を待っていたではないか。
 店を、いや本部を空にするわけにはいかない。
 店の、いや本部の電話が鳴ったら俺は電話に出て言うのだ。
「こちら自由が丘署。―――はぁ?OOO(店の名前)?違います」(ガチャン)
飛び出していった刑事達からの連絡だったら、
「わかった。頑張ってくれ」
「よし、XXXへ行ってくれ」
「時間が無い、急げ!」
そして、事件が解決したら言うのだ、
「みんな、よくやった。みんなのおかげで事件は解決した。ごくろーさん」


 女性は立ち上がり、身なりを整えている。その顔は、恐怖で蒼白。
 マスター刑事、
「大丈夫ですか?」
びびり顔の派手目蒼白女性被害者は、
「はい」
と小さく答える。

 サラリーマン刑事、逃走しているホシを追跡。
 ビデオ刑事、目撃者の確保。および情報収集。
 見事な連係プレイ、阿吽の呼吸。

 一連の光景を小窓から監視する私とカミサン。
 皆が犯人追跡で移動したため、小窓から見えなくなった。私は覗くのを、いや監視をやめ座った。
「なんだったんだろう?痴話喧嘩かな?」
「ちがうんじゃない」
 女性がタクシーを止め、乗り込もうとしているのをカミサンが見た。
「あれ?女の子タクシーに乗ってる。帰っちゃうのかしら」

 暫くしてマスター刑事が、やはり店を開けっ放しにしておくのはよくないと思ったのか最初に本部に戻ってきた。
「どうでした?」
「知り合いとかじゃないみたいですね」
「男は逃げたんですか」
「逃げた。逃げたんですけど走らないんですよ。歩いてふらふらしているんですよ」
「酔っ払いですか?それともシャブ中ですかね」
「どうなんだか、歩いて逃げるって言うのも怖いですよね。急に振り向いて刺されそうで」
確かに言える。

 ビデオ刑事が戻る。
「警察呼んだから、もうすぐ来るでしょ」
 そう彼は、勿論本物の刑事ではない。

 サラリーマン刑事も戻る。
「女性が、タクシーに乗って帰ろうとしているから、現場にいるように指示したんですよ」

 私が
「なんだったんですか?」
サラリーマン刑事が、
「暴行未遂みたいですよ」
「こんな明るい表通りで?」
「そうなんですけど・・・・」
「AVビデオのゲリラ撮影じゃないの?」
するとビデオ刑事が、
「それは言えてますね」
カミサンが
「警察呼んでまでやらないでしょ」
私が
「いや、奴等それくらい平気でやるよ。それに女性の叫び声感情こもってなかったな・・・AV女優は演技の勉強して無いから。それに男も逃げているわけじゃないみたいだし・・・」
皆、
「うーん・・・・・」


 遠くの方から、フォンワン、フォンワン、フォンワン。
 段々音が大きくなって、フォンワンがぴたっと止まる。
 パトカー到着。

 マスター刑事が再び情報収集に出て、戻ってきた。
「男捕まってるんでしょ」
「ええ、ゲロしてました」
「もう全部話したんですか?」
「いや、本当にゲロはいてるんですよ」
全員、
「はぁ?」
「かなり酔っ払っているみたいで」

 K似男は、かなり酔っているようだ。うちのアルバイトKもかなり酒好きだ。
「!」
(もしやKが変装しているのでは!?)
 現場にK似男の遺留品のメガネが落ちている。
(!Kも確かメガネをしているぞ!!)
(!K似男の歩いて行った方角は、Kの家の方だ!!!)

 まさか!
 K似男=K!!
 いや、俺はうちのバイトを信じている。
 Kがもし容疑者としてしょっ引かれても、警察に行ってちゃんと弁護証言しよう、
「あいつは女にもてないけど、酔っ払ってべろべろになって正体なくなるけど、ちょっと脳みそ足りないけど、若いのにオジサンみたいだけど、断じてそんなことをする人間では在りません!」
と、びしっと刑事に言ってやろう。



 暫くして制服警官が、店に来た。
 マスター刑事にいろいろ聞いている。
 警官が刑事に聞いている。
「どういう状況でした?」
「キャーって言う声が聞こえたんで見たら、男性が女性にのしかかってスカートをたくし上げていて・・・・・」
マスター刑事が状況を説明。
「わかりました。証言してくれますね」
「ええ」
「証人が3人いれば、立件出来ますから。証言してくれますね」
「はい」
本物制服警官、よし証人一人確保!という感じで店を後にする。

 私が、
「AVビデオゲリラ撮影説もまだ捨てきれないな」
と言うと、しらーとした空気が流れ、皆がそれは無いでしょという目を向けてきた。
ナンダナンダ・・・・ボスの言う事に逆らうのかよ。

「奴は国士舘大学のサッカー部かもしれないな」
 国士舘大学のサッカー部は先日、集団婦女暴行で大量検挙された。
「いや、亜細亜大学の野球部かもしれない」
 7日の夕方のニュースで亜細亜大学の野球部員が集団痴漢行為で検挙されたと報道していた。

 マスター刑事がカミサンに、
「奥さんそこから一番良く見ていたじゃないですか、おまわりさんに言って下さいよ」
「え?―――あー、そうだけど何も聞かれなかったから・・・・・」

 制服警官は、マスター刑事を証人として確保した事で満足して、サラリーマン刑事、ビデオ刑事、俺、カミサンには、何も聞かずに出て行ったのだ。
 お客さんには迷惑を掛けずにという配慮から、聞かずに出て行ったのかも知れない。
 証人が足りなければまた来るだろう。
「他にも目撃した方はいませんか?」
ナンテいいながら。
 それに現場付近には、近くの店から沢山の刑事が「太陽に吠えろ」のテーマソングを心の中で鳴らしながら駆けつけていた。



 30分ほどしてご近所の夫婦が、
「マスター、さっきの見た?」
といいながら入ってきた。マスターが、
「まだ警察いるの?」
「いやもう引き上げていったけど」
「あ、そう。いや、もう目の前のそこでさー・・・・」
マスター刑事は、身振り手振りを交え活き活きと解説をしていた。 

 犯人は捕まり、多分女性も警察で事情聴取だろう。

 マスターのところにも後で、聞きに来るだろう。
 もしくは、事情聴取のため出頭要請が来るかもしれない。

 俺は酔いが回ってきたのでこの辺で帰ることにした。
「マスター、証人で事情聴取に行くと警察からギャラ出ますよ」

 マスターの目がちょっと光った。



【俺的事件概要】
 現実と夢の境目がわからないほど泥酔した若者が、派手目のネーチャンを見て欲情。夢の中で襲い掛かったが、実は現実だった。 通行人等に注意され、これは現実なんだと認識。止めて立ち去ろうとしたが、その時はすでに犯罪行為が成立していた。 多分若者は、酔いがさめても記憶が殆ど無いと思われる。しかし覚えていないでは済まないのが警察。

 俺及び数人は、泥酔男による暴行未遂現場を目撃した。
 女性の叫び声は、映画の撮影現場だったら監督に、
「そんな叫び声じゃ駄目だ!」
といわれそうな声だった。本当の恐怖は人の声を奪う。


 翌日。
 うちのアルバイトKは事件を知っていた。
「自分は犯人じゃない」
と言い張っていた。




 だが、AVビデオゲリラ撮影説は・・・・・・・。


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