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2004年01月31日(金)・「タクシー2」
 先日乗ったタクシー。
 年の頃なら30代後半の運転手。
 乗った後、嬉しそうに話しかけてきた。

 ある信号の所で、
「イャお客さん。私さっきここで渡哲也を乗せたんですよー」
「え?」
「イヤァーー、渡哲也。ご存知でしょーっ」

 運転手の興奮に圧倒されそうだ。

「ん、おぉー分かるよ。知ってるよ」

 運転手は自分で話しながら、また興奮がよみがえってきたようだ。
「イヤーぁ。奥さんとご一緒でしたよ」
「あ、そぉー」
「いやー。はじめて乗せたんですよー」
「へぇー」
「イヤ以前、無線で呼ばれて自宅へ行った事あるんですよ」
「ふぅーん」
「イヤー、その時は息子さんを乗せたんですよー」
「あぁ、そぉー」
「イヤーでも渡哲也本人を乗せたのは、はじめてなんすよー」
「あぁ、そぉー」
「いや、カッコよかったっすよー」
「へぇー」

 話が「イヤー」で始まる運転手の話は、取りとめも無く続く。

 イヤー運転手は、その興奮と喜びを、俺に分けようとでもするかの様に話す。
 どうだ!いいだろー、と自慢するかの様に話す。

 イヤー運転手の口は止まることを知らない。



 しばらくして俺が、
「運転手さん、今日は渡さんデー(day)だね」
「イャ、はぁい。ホントそうですよー」
「渡さんデーついでに言うとね、俺、渡さんの影武者だったんだよ」
「いゃぁ・・・へっ???」
「もう10年以上前だけどね」
「?????????」

 イヤー運転手の口が止まった。
 イヤー運転手は分けが分からず、自分の中で必死に情報を整理分析しているようだ。
 バックミラーでチラチラ俺の顔を見る。

 確かに影武者といわれても、他業界の人にはピンと来ないだろう。

(何を言っているんだ、こいつは?????)
(影武者??????)
(渡哲也の??)
(はぁ???)
(なんだ、こいつは???)
(頭おかしいのか????)
(俺の事、からかってんのか????)
(おい、俺が言ってるのは渡哲也だぞ!!!!!)
(お前の言っている渡さんて、誰だ????)
(お前が、渡哲也の事知ってる?????)
(ケッ、嘘言ってんじゃねぇーよ!!!!!)
(お前如きが、渡哲也の事知ってるわけねぇーだろ!!!!)
(でもな、俺は今日乗せたんだぞ、実物を!!!!)
(ホントに乗せたんだぞ!!!)
(嘘じゃないんだぞ!!!)
(お前みたいに出鱈目を言ってるんじゃないんだぞ!!!!)
(お前俺の話を信じろよ!!!!)
(乗せたんだってば!!!!!)

(あーでも、お客だから適当にあわせなきゃ)
(こういう奴は、変に刺激すると危ないから)

「―――いゃ・・・へぇー、そうなんですか」
「―――だから運転手さんは、渡さんと、渡さんの奥さんと、渡さんの息子さんと、渡さんの影武者を乗せた事があるってわけだ」
「―――いやー・・・はぁ・・・・・そうですね」

 イヤー運転手は、一分間に10回以上のペースで俺を観察している。

 前見て運転しろ。
 事故起こすなよ。

 沈黙が車内を包む。

 必死に頭の中で、納得ポイントを探しているイヤー運転手。


 イヤー運転手は道を間違えた。

「おい、ここ曲がるんだよ」
「いや!あっ!!あーー次でも行けますから」



 タクシーを降りる支払いの時もイヤー運転手は、俺のことを何か言いた気に見ている。

(ホントに乗せたんだからな。―――俺―――渡哲也を・・・)
(羨ましいからって、変な作り話するなよな)


 分かったような、分からないような顔のイヤー運転手。

(あ、仕事仕事)

 気を取り直しイヤー運転手は、明るく
「イヤァー、有難うございましたー」



 タクシーを降りた後、カミサンがポツリと一言。

「あの運転手さん、お父さんの話信じてないよね」
           


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