「パチンコ・ニュースのお時間です。 先ほど、午後6時30分ごろ、東京大田区蒲田駅西口のパチンコ屋”ビッグ・アップル”の2階フロアーで、男性客が椅子から転倒。玉を2箱分フロアーにぶちまけるという事故がありました。 幸い大惨事には到らずけが人は出なかった模様ですが、店内は一時騒然となり辺りはパニックとなった模様です。では特派員の現地取材映像を・・・・」 「ハイ、こちら只今大田区蒲田駅西口にあるパチンコ屋"ビッグアップル”2階の現場に来ております。現在は、事故があったことなど全ての人が忘れ去ったかの如く、お客さんがパチンコ台を見詰め真剣に玉をはじく普段のパチンコ屋さんの光景を取り戻しています。ではちょっと伺ってみます。どうですか、事故を御覧になりましたか?・・・」 「いやぁ、なんか騒いでるのは気がついてたけど、丁度大当たりの最中で、そんなの構っていられなかったから・・・」 「そうですか。有り難う御座います。お隣の方は?」 「あぁ、なんかガシャーンて音がしたから見たら、人が倒れていて、パチンコ球がこっちの方に津波か洪水のように流れてきたよ」 「そうですか。その時店内はどんな感じでした?」 「うーん、・・・・別にぃ・・って感じじゃないの。ま、店員は結構あせってたみたいだけど・・・。あっ、あの兄ちゃんだから直接聞いてみれば」 「まだいらっしゃるんですか?」 「うん、あの兄ちゃんだよ、Gジャン羽織った」 「どうもありがとう御座います。―――では、ご本人に伺って見ましょう」 「すみません」 「?」 「転倒されたご本人の方でいらっしゃいますか?」 「・・・・・」 「転倒された・・・」 「・・・そうだよ」 「現在は、えーー、何事も無かったように5箱積んでおられますがご本人のようです。―――どんな状況だったんでしょうか。宜しければ聞かせていただけないでしょうか」 「え〜?、格好悪ぃなぁ。―――これカメラだろ?テレビ?全国に流れちゃうんだろ」 「いえ、生放送じゃないので、音声は変えて、顔にはモザイクかけますから」 「本当?」 「はい、お約束いたします」 「分かったよ。じゃ、いいよ」 「では、改めてお伺いいたします。どの様な状況でした?」 「うーん・・・・、でも声変えると、あの変な甲高い宇宙人みたいな声に為っちゃうんだろ。ミットモネーナー・・・、顔は、せっかくだからモザイクやめて、流してもらおうかな〜」 「は?」 「だってあれだろ」 「?」 「子供に自慢できるだろ!父ちゃんテレビに映ったんだぞって」 「・・・・・」 「どうだ!ピース!!・・・なんてちょっと古いか?」 「まぁまぁまぁ・・・で、どんな状況でし」 「うん、あの時は2箱出していたんだ。・・・・・だとすると、顔が映ってんのに声が宇宙人ってのはおかしいな。声も流して良いよ」 「分かりました・・・分かりましたから。で、どんな状況だったんでしょう」 「まあ、パチンコを打っていたわけだよ、当然」 「はい」 「あ、ちょっと待ってろ」 「?・・どちらへ?」 「ちょっと便所に行って髪撫で付けてくるから」 「?」 「ガッハッハ、全国放送だろ。オイ、カメラマン格好良く撮れよ。格好悪く撮ったら承知しネェからな」 「あ、・・・・すみません・・・・・皆様申し訳御座いません、少々お待ち下さい」 「お〜、悪ィ悪ぃ、待たせたな。じゃ始めよう。・・・・・・でも、なんか緊張してきたな」 「では、改めて」 「ちょっと待て、緊張したらトイレ行きたくなった、待ってろ」 「あ、・・・また行っちゃった・・・」 「おーー、悪ィなーー。お待たせーーーーー。じゃ行こうか」 「はい、では今度こそホントに」 「おい、ちょっと待て。お前顔が怖いよ、なんか怒ってんの?スマイル、スマイル。全国放送だから・・・な・・・俺みたいに笑顔だよ。・・・・そうそう・・・その笑顔だよ・・・。よし行こう」 「オホンッ・・・・・では・・・、改めまして伺いたいと思います。どんな状況でした?」 「いやぁーーー、あのな・・・、俺ね、眠かったの。それで眠気覚ましのために、伸びをしたわけだよ。それで背もたれに思いっきり体重をかけたんだよ。あ、良ぃい、顔のモザイクはいらないから。声はこの声ね、宇宙人は無しだから、分かった?頼むよ。あ、それでね体重をかけたんだよグググーーーーーって。そしたら床に固定してある椅子がボキッて折れたんだよ。固定椅子がだよ。それでそのまま真後ろに倒れてそこに積んであった自分の出玉を2箱もフロアに撒いちまったんだよ」 「椅子が折れたんですか?」 「そう、そうなんだよ。ボキッ・・・だぜ。ボキッ!!」 「ボキッ!!・・ですか・・・・」 「そうだよ」 「今打っている台は、その時と同じ台ですか?」 「ソーだよ、ボキッ!!って」 「あの・・・」 「なんだよ、ボキッ!!だぞ」 「こちらの椅子は、その時と同じ椅子ですか?」 「そうだよ、ボキッ!!だからな」 「別の椅子ではないのですか?」 「違うよ。この椅子だよ。これ、この椅子、ボキッ!!さ」 「修理されたわけですか?」 「・・・・いや・・・・ボ・・キッ」 「―――固定されてない・・・ですよね?」 「ン?・・・・ボ」 「――――」 「・・・・なーんだ、ばれちゃったか。良いところに気がついたな。まあ〜なんだ、あのな・・正確に言うとだな、パチンコ屋の椅子ってのは殆どが床に固定してあるんだけど、時々ナンカの都合で固定されていない椅子が置いてある台があるだろ。たまたま俺の座ったこの台が、そういう椅子だったわけ。で、固定されてるつもりで思いっきり体重かけたらそのまま後ろにズデーンてさ、、、そういうわけ」 「なるほど、固定されていない椅子だったから伸びをして後ろに転んでしまったと・・・」 「そうだよ。・・・・なんだよ人がせっかく面白くしてやろうと思って話したのに、種が分かっちゃったじゃネェか。ばれちゃったじゃネェか・・・ま、良いや、しょうがネェ、・・・・そういうことだ」 「じゃ転倒は、大変失礼ですが、お客さんの不注意って言う事ですか?」 「―――、そうだよ。・・・・ナンカ気分悪くなってきたな・・・・・人がせっかく協力して気分良く喋っているのによぉ・・・お前、ちゃんと空気読めよ」 「・・・・はあ」 「駄目だよ、そんなんじゃぁ。出世しないよ」 「はぁ、そういわれましても・・・・」 「いいか、そういう時はな、適当に合わせて笑っていりゃ良いんだよ。・・・・・駄目だよ・・・そんなんじゃぁ・・・場を読めよ・・・」 「失礼致しました」 「・・・・まぁ、今更遅せぇんだけど・・・分かりゃ良いよ、分かりゃ。・・・・気を付けろよ・・・お前は人にものを尋ねている立場なんだからな・・・・ワキマエロ・・・・バカ」 「あ痛!そんな殴らなくても・・・・ゲンコツで・・・・」 「バカヤロ、これですんで有り難いと思え。ちゃんと上手く編集しとけよ、コラ」 「・・・・・・・・・・はい、分かりました。・・失礼しました。・・・以後・・・・・気を付けます。・・・・・・・―――では、これで現場からの」 「オイ!なんだよ、急に終わらせようとして。まだ途中だよバカヤロウ!人の話は最後まで聞け、コラ。お前、人にものを尋ねたんだぞ。ったく分かってねぇよ」 「・・・失礼致しました」 「で、どこまで話したっけ?」 「はぁ」 「・・・・で、どこまで話したかって聞いているんだよ」 「・・え・・・あの・・・・ボキッと・・・折れて・・・・・」 「そうそうそう・・・・、それでな自分の積んだ箱の上にガシャーンだよ。・・・・玉ブチマケーの、大盤振る舞いだよ。どうだ凄いだろ。参ったか」 「はぁ、参りました。・・・・・・・それで・・・・・ブチマケた玉は?」 「お前、良いところに気がついたね。それだよ、ガシャーンだよ」 「どうしました?」 「拾ったよ、ボキッ!!ガシャーンだよ」 「全部ですか」 「そうだよ、ボキッ!!ナンカこういわないとリズムが取れなくなっちゃったな、ガシャーンだよ。お前も一緒にやれ」 「私もですか!?」 「そーだよ」 「イや私は・・・・」 「いーから合わせるんだよ、こういう時は。お前出世しないよ」 「・・・・分かりました。――――大変でしたね、ぼき・・」 「ナンカ声が小さいな、ボキッ!!もっとデカイ声で、ボキッ!!」 「はい、、ボキ」 「もっと!!」 「―――ハイ!、ボキッ!!」 「そうそうそれだ。続けよう、ボキッ!!ガシャーンだよ」 「大変じゃなかったんですか?ボキッ!!ガシャーンで」 「全然、ボキッ!!ガシャーンだったけど」 「でも時間かかったんでは?ボキッ!!ガシャーンだったら」 「―――違うの・・・・ボキッ!!ガシャーンでね」 「どうしたんですか、ボキッ!!ガシャーンのあと」 「あのね・・・・ここの店員がね、拾ってくれたの。ボキッ!!『お客様、全部拾っておきますからゲームをお続け下さい』ってお前、中々言えるもんじゃないよこのセリフ。ガシャーンだよ。それも笑顔だよ、笑顔で。ボキッ!!俺だったらこのバカ何やってんだの一言くらい言ってるよ、きっと。それがだよ『お客様、全部拾っておきますからゲームをお続け下さい』だよ。これ中々いえるもんじゃないよ、ボキッ!!ガシャーンだからね」 「まったく、ボキッ!!ガシャーンですか・・・なんか・・これ・・楽しいですね・・・・」 「だろぅ、ボキッ!!ガシャーンだよ」 「はははは、ボキッ!!楽しいですね、ボキッ!!、ガシャーンですか」 「そうだよ、ボキッ!!ここの従業員教育は行き届いているよ、マジ。ガシャーンだよ」 「たしかに、ボキッ!!それは、ガシャーンですね」 「ビッグアップル!ビッグアップルだからねここのお店、良い店だよ。そこんとこ宜しく!、ボキッ!!ガシャーンだよ」 「分かりました、ボキッ!!・・・・ではこれで、ボキッ!!現場からの中継を、ボキッ!!終わらせて頂きます、ガシャーンでした」 「なんだよ、もうチョイ話そうぜ、ボキッ!!・・・・、ガシャーンだよ・・・・・ボキッ!!ガシャーンで、最後は床の上を玉が流れて・・・ザーーッだ。・・・・・ボキッ!!ガシャーン、ザーーーーーー」 「何。何これ?」 「回ってます」 「?」 「流れてます!お願いします」 「?・・・・!!・・・オホン、―――大変失礼致しました。只今こちらの手違いで未編集の取材テープを流してしまいました。謹んでお詫びさせて頂きます。なを転倒された男性は、大田区沼部在住の小野明良さん49歳。無事が確認された模様です。では、続きまして・・・・」 |