タクシーに乗れば運転手さんは不況をぼやき、飯を食えばサービスがいつになく良く、フロア係はミエミエにもう一杯の酒を勧め、酒場の扉を開ければマスターは一人ぽつんと客を待つ。 ある経営者は店の内容充実を心がけ、別の経営者は泣きの営業に走り、また別の経営者は歯を食いしばる。 頑張って繁盛している店もあるけど、巷は総じてこんな感じ。 昨日は、知り合いの店最後の営業日。 店を片付けた後、自由が丘へ向かう、03:30。 03:45到着。 朝5時までの営業のはずなのに、既にシャッターが閉まっていた。 最終日のお客さんは、早くに切れてしまったのだろうか。 それとも早仕舞して常連さんたちと最後の杯を上げに行ったのだろうか。 夜明け前の自由が丘にポツリと一人私は取り残された。 空車のタクシーが、目の前でスピードを緩める。 とこかで酔っ払いの嬌声。 ビルの石段に座り込むカップル。 何故かしみじみと閉店を実感。 水にたらした絵の具が広がるように、私の夜のしじまに閉店感が広がる。 暫くの間、閉まったシャッターを眺め、私はその場から離れた。 歩きながら名ボクシング・トレーナー故エディ・タウンゼント氏の言葉が頭をよぎる。 「勝ったチャンピオンには人が一杯寄って来るの。だからそんなときは僕は要らないの。でも負けた時には誰も来ないよ。だから僕だけはそばにいてあげたいの・・・」 ただ、奴は負けたわけではない。 |