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2007年03月23日(金)・「いざワイルドバンチ」
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【出発地】沼部ワイルドバンチ
【目的地】沼部ワイルドバンチ

【行程】沼部ワイルドバンチ→綱島街道→国道1号線→平塚市御殿→中原街道ひたすら東上→沼部ワイルドバンチ

【推定歩行距離】約102km
【目標行軍時間】21時間(含休憩)
【決行日】平成19年(2007年)3月22日(木)
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 昨日行って来た。
 結果を先に言おう。
 無事帰還した。

 今私は、足が痛い。小指の豆が痛い。
 だが、今日もいつもどおり営業します、沼部【ワイルドバンチ】。


 3日前から準備は始まった。
★コースの選定
 100km前後になるコースを選ぶ。  今回の目的は中原街道を沼部まで歩く事に決定。準備行動として中原街道起点の平塚市御殿まで徒歩移動。その後計画遂行。  地図の分割印刷、A4の紙に17枚。

★帽子購入
 ウエスタン風の麦藁帽子を島忠ホームセンターで購入、298円。
 これをかぶると粋なカウボーイに瞬く間に変身。だがカミさんに言わせると”♪それにつけてもおやつはカール”のカールおじさんらしい。じゃかぁしぃ!
 多摩川河川敷で一度試用。具合良し。

★家宅捜索
 昔何かの折に使ったウエストバッグを押入れの中から探し出し引っ張り出す。今回はこれを使用。
 中には地図、タオル、ティッシュ、ドリンク、食料、全部入る。それと飴玉5個と点眼薬。



 3月21日(水)は、春分の日のためワイルドバンチの営業は12時まで。
 12時ちょっと前に、最後のお客さんを送り出す。
 よし、これから今日は計画実行だ。ところがこんな日に限って、
「こんばんわー」
 何度か来ているお客さん。
「わりぃ、今日祝日だからもう閉めたんだ」
「あ、はーい。また来まーす」

 おにぎりを作り始める。
「こんばんわ」
よく来るお客さん。
「今日もう終わったんだ」
ところが、
(終わってたっていいじゃない、座らせて、一杯飲ませてよ)
の雰囲気ムンムン。
 こっちは、駄目の気ムンムン。
 恨めしそうに帰っていくお客さん。またのご来店をお待ちしております。


 おにぎりを作りながら、サンドイッチを作りながら、店を片付けながら、徐々に気合が入ってくる。
 準備万端整えて、さあこれから出発するぞと、店の電気を消しながら、ドアを閉めながら、鍵をかけながら、集中力が高まってくる。
 今回の100km行の大変なことを本能的に感じ取っているのだろうか。自分を奮い立たせようと言う気持ちは無いつもりだったのだが、無意識にそうなっている自分がいる。

 ちょっと前に日付は変わって3月22日(木)定休日。

01:20
 よし、出発だ!
 店を背に左へ一歩踏み出す。頭の中ではE・エルガーの「威風堂々」が、大音量で流れる。
 深夜の街は当然真っ暗。

 沼部の踏み切りを渡り玉堤通りを上流方向へ。丸子橋を渡り神奈川県に入る。そこは中原街道と綱島街道のぶつかるところ。綱島街道へ入る。帰りは同じところを中原街道から帰ってくる予定。

 新丸子、武蔵小杉、元住吉、日吉、綱島、大倉山、菊名。深夜の綱島街道をヒタヒタと歩く。GパンGジャン越しの夜風はちょっと冷たい。体が冷える。
 菊名を越えたところで道なりに左に曲がりながら、小さく台地を上る。
 妙蓮寺、白楽辺りを右側に見下ろしながら歩く。左側は何という町だろう?両サイドの夜景が綺麗だ。
 台地を下り浦島丘という信号で国道1号線にぶつかる。多分綱島街道はここで終わり。綱島街道はそんなに長い街道ではない。国1に入る。さあこれから平塚まで下るぞ!
 横浜のビルがあちこちでチカチカと輝く。

 東横線からそれて東海道線、東神奈川、神奈川を通過。青木橋の信号を左折してさらに国1を下る。

04:00
 横浜駅東口付近通過。
 この時点で、17枚擦った地図のうち4枚目まで終わる。
 腹が減ってきた。歩きながらおにぎり豚味噌味とバゲットパンのサンドイッチを食べる。まだ暗い街に人は殆どいない。
(このペースなら楽勝かな)
 なんて舐めた考えが頭に浮かぶ、と同時に、
(こういうこと考えると、後で泣くんだよな)
 歩く、歩く。

 保土ヶ谷、東戸塚、を通過しながらバゲットパンを一つかじる。
 この辺りから、太陽が上り始め陽が射し始める。それまで首に引っ掛けて背中にたらしてあった麦藁ウエスタンハット298円を被る。カールおじさんに変身。じゃかぁしぃ、だれがじゃ。

 太陽の上昇と共に気温も上がり始める。体が温かくなってきた。
 戸塚。出勤の人たちとすれ違う。出勤する人の顔は、何故皆あんなに険しいのだろう。

06:50
 戸塚を越えて大坂上という信号のところにある公園で休憩。飲み干したウーロン茶のペットボトルに水を補給。足の運動。
 ホントはもっと早く休憩したかったのだが、良い場所が中々見つからず、休憩なしでこんなに歩いてしまった。7枚目の地図を見ながらふと思う。
(ペースが遅いな・・・・今減量中だから力が出ないのか?・・・・)

 国1原宿の交差点通過。この交差点は昔よく通った。鎌倉に行くなら左折。湘南、江ノ島方面なら直進。今回は当然直進。
 途中、国1はバイパスになる部分が所々ある。ここ、藤沢もそうだ。ところが、
(あれ!?)
 藤沢バイパス出口で国1沿いの歩道が無くなるじゃないか!
 ここまで歩きながら途中何度か睡魔が襲うが、一気にお目目パッチリ。目が覚めてしまった。
 人は一体どこを歩けば良いんだ!?
 反対車線に回るも、歩道が無い!!
 どーーーすりゃ良いんだ!!!
 地図は、コース以外プリントしてねぇ〜んだよ!!!!

 しょうがない、予定外だが国1を逸れて藤沢方面へ行ってみる。また、先の方で国1へ戻れば良いのだ。
 国道467号線に出て道路看板を見ながら、四ツ谷という信号で国1に戻る事が出来た。幸いにも迷う事は無かった。ラッキー、ラッキー。今日は良い天気だ。

 辻堂、茅ヶ崎通過。相模川にかかる馬入橋を渡る。河口付近の橋なので長い橋だ。今まで車で通過したことはあれ、歩いて渡るのは初めてだ。よく交通情報で”馬入橋付近で渋滞”と言うあの橋だ。橋を越えると平塚市。

10:40
 ん?
 右手に、平塚八幡宮発見。寄って行こう。

 参拝。

 先々週の鎌倉鶴岡八幡宮といい、今日の平塚八幡宮といい、俺は八幡様に呼ばれたのか知らん。
 そんなことが頭をよぎる。

11:00
 検察庁前を右折して国1から逸れる。程なく平塚市総合公園に到着。大きい公園だ。
 ここで休憩を取った後、本日の目的行動【中原街道東上作戦】に移る予定。
 ベンチで休憩、おにぎり豚味噌味とバゲットサンドイッチを食す。残りおにぎり一つ。
 靴を脱ぎベンチでうたた寝20分。

 ここまで推定53km、順調。
 だがペースが少し遅いのが気にかかる、パワー不足か。
 両の足、小指に豆が出来た。小さい水ぶくれ。
 靴を履くとき、足が若干大きくなっているのを感じる。

 ペットボトルに水を補給。
 点眼薬を注す。

11:50
 さあ、ここからが本番。平塚市総合公園出発。
 現在、中原小学校があるところに昔中原御殿と言うのがあって、徳川家康が鷹狩の時などに使った云々・・・・別名雲雀御殿云々・・・・・。
 そこから江戸、虎ノ門までを結ぶ街道が中原街道云々・・・・・・・別名御酢街道云々・・・・・・詳しく知りたい人は勝手に調べろ。

12:00 
 中原御殿跡中原小学校、到着。
 小学校の敷地の中に、外から見えるように石に書かれた能書きがこっち方向道路側に向いて立てられている。街道巡りをしている人のために親切な配慮だ。
 石に書かれた能書きを読んで、さあ出発。
 いざ沼部!
 いざワイルドバンチ!!


 四之宮南左折。
 11枚目の地図に突入。田村十字路右折、神川橋で再び相模川を越える。
 JR相模線寒川通過。

 地図上の景勝寺前の信号を左折予定だったが、どうした事か信号が見つからない。
 地元の二人連れのご婦人に地図を見せながら尋ねる。が、お二人とも地図が読めないようだ。
「あ、あっちだね、あっち」
「そうだね、ん、そうだよ」
お二人は、不安と自信無さげな表情たっぷりで道を教えてくれた。
「どうもありがとうございました」

 失礼ながらお二人の表情を見た私は、教えて頂いた方向へ行く事をためらった。
(どうするかな、もう一度他の人に聞くかな)
(・・・・いや!)
(こういう時は、そうだ!自分に聞くのだ!!)
 私は、八方を見回し地図を睨み付けた。
 再び辺りを見回し、地図を凝視した。
 集中。
(左だ!)

 ご婦人方は直進と言っていた道を、私は左に折れた。
 だったら聞くなよと、誰かからお叱りを受けそうだが、そうした。

 結論だけを言えば、私の選択は正しかった。

 JR相模線の踏み切りを渡り、街道を上る。

 黙々と歩く。
 右に大蔵、左に小谷という地名。
 読みは「おぞ」と「こやと」。日本の地名は難しい。

 両足の小指の豆がでかくなってきて、ジンジン痛い。
 歩くスピードがガクリと落ちる。
 今まで微動だにせず安定していた、地面に映る私の影法師が不必要に揺れ始める。足を庇って、歩く姿勢が乱れ始めた。
 綾瀬市に入る。

15:00 
 急激に痛みを増す足。早川信号付近で10分休憩。
 ここで5個持ってきた飴の、最後の一個を口に放り込む。
 足は痛いが、とに角出発。

 歩く、歩く。  痛む足を庇いながら、歩く。
 大きく揺れる影法師。
 痛みとの戦いが本格化してきた。
 声に出して気合を入れながら歩く。
 影法師が大きく揺れる。
 歩く姿勢が悪くなると言う事は、疲れ倍増なのだよな。でも足の痛みを庇おうとするため徐々に姿勢が崩れるを止められず。  多分まだ行程は30kmくらいは残っているはずだ。
 朝方、横浜付近を通過したとき、
(楽勝かな。いや、こんなことを考えていると後で泣くんだ)
と思ったのを思い出す。

 痛みに耐える。
 口をついて出るのはお神輿を担ぐ時の気合とリズム。

 痛みが増す。歯を食いしばる。声ではなく、食いしばった歯の間から息を吐く。
 時折、意味なく大声を出し気合を入れる。

 小田急江ノ島線「桜ヶ丘」付近を通過、国道467号線を横切る。この時「丸子橋25km」の看板が目に入る。
(お!丸子橋25kmか!!よっしゃ)
 丸子橋の看板が出てくる事に、ゴールが近づいてきた事を感じる。

16:00
 おにぎり梅干、最後の食料を歩きながら食べる。

 この頃から、すれ違う人の俺を観る表情が変わってきた。そして明らかに俺を避ける、
「うわっ」
「なんだこの人」
「どうしたんだこの人」

 ぎこちないフォームで痛みを堪えながら歩く、いや堪えるというよりは、痛みをねじ伏せながら歩く俺の形相は厳しいものであると言う事は自覚があった。だが、自覚してる以上に激しい表情をしていたのかもしれない。

 中原街道は山道という訳ではないがかなり起伏に富んでいて、この昇り降りが、上る時も下る時も痛む足にかなりの負担をかける。平坦なところが一番痛みが少ないのだが上ったり下りたりの繰り返し。

 14枚目の地図を開いた後、地図を見る気もしなくなる。気合もあまりでなくなってきた。
 ただ痛みと戦いながら「丸子橋OOkm」の道路看板を見ながら歩く。

 何時ごろだろうか、佐江戸付近を通過する辺りから雨がぱらつき始める。マズイな。
 日も沈み暗くなり、気温も下がり始める。

 大塚原を右折、向原を左折、雨の中を歩く。濡れる。体が冷える。寒い。

 突如、本能が叫ぶ。
(お茶や水なんかじゃ駄目だ、力が出ない。糖分を沢山含む飲料だ!)

 道端の自動販売機でコーラを買い、一気飲み。

 すると不思議な事に5分後に汗が噴出し始める。
(人間とは汗をかくためにも糖分が、エネルギーが必要だったのか)

 さらに5分後不思議な事に足の痛みが和らいだ。
(人間とは痛みと戦うためにも糖分が、エネルギーが必要だったのか)

 私は一気に加速した。
 雨の中、加速。
 足の状態は変わる事は無いのだろうが、体感痛度は減った。

 1時間程歩くと、汗も止まりまた足の痛みが増えてきた。
 今度はりんごジュースを買った。

 飲むとまた汗が出てくる。
 足の体感痛度が減る。歩く。

 人間の体の不思議さを感じる。

 痛みがぶり返してくると一口りんごジュースを飲む。これを繰り返しながら通過する地名も見ずに加速して歩く。
 
 野川を越え、見覚えのある町並みに入る。もうすぐだ。もうすぐ丸子橋。
 武蔵中原付近で、りんごジュースを飲み干す。
 西明寺通過。
 丸子橋直前で足の痛みが増えてきた。糖分が足らないか!
 ナニクソ!
 もうすぐ目的地だ!沼部ワイルドバンチ!!
 丸子橋を越えれば、そこはゴールだ!!!

 歩く。
 丸子橋はもう近い。
 歩く、歩く。
 丸子橋が見えてきた。
 歩く歩く歩く歩く。
 俺は丸子橋を渡る。渡る。渡る。
 E・エルガー「威風堂々」大音量。
 多摩川の上を歩く。歩く。歩く。
 胸を張って歩け「威風堂々」だ!

 同じ日に向うから丸子橋を渡って来た事が、1年も2年も前のことのように感じる。

 丸子橋を渡り切り、土手沿いに玉堤通りを沼部へ。
(丸子橋を渡ったがまだゴールではない。気を緩めてはいけない)

 何故か、脳内音楽がリヒャルト・シュトラウス「ツァラトゥストラはかく語りき」に変わっている。大大音量。
 最近「2001年宇宙の旅」のDVDをみたからだろうか。
 これからが始まりだぞ!と何かが俺に言っているような気がする。

 多摩川線の踏切を越え、右に曲がる。
 沼部駅改札を過ぎて我が店、ワイルドバンチ。

20:55 到着

 向かいの団子やさんの御かみさんがお店のシャッターを閉めている。
 俺はお店のドアの鍵を開けている。
「今日はこれからですかー?」
「いえ、今日は定休日です」



 店と家の間、通常徒歩2分。
 ゴール後、店で一息ついたら気が抜けたのか、足の痛みが100倍増。
 店から家まで、7、8分かかった。

 玄関で靴を脱ぐ。
 靴下が脱げない。
 小指が膨れ上がっていて、5本指の靴下の小指が抜けない。
 無理やり引っこ抜く。激痛。

 家に帰ったらさらに気が抜けたのか、ぶるぶる震えだす。
 雨で濡れた体は冷え切っていた。
 ぬるめの風呂に1時間浸かって体を芯の方から温める。


 酒も飲まずに寝る。



 と、まあこんな具合の100km行、【いざワイルドバンチ】でした。
 所要時間19時間35分(含休憩)。

 前回の50km行と云い、今回と云い、何でこんなことするんだか自分でもよく分かってないのだが、心が何かに向かって動いた時、それに従って素直に行動するって事が今私が求めている事のような気がする。
 人が失いつつある野生の部分を少しでも確認したいのだろうか。
 人はいろいろな制約があって、心のままに動く事は歳を重ねるにしたがってやり辛くなるばかりなのだが、そんな去勢された矯正された人間には成りたくないともがいているのかも知れない。

 ただ、そんな理屈抜きに単純構造の私は、歩くだけでとても楽しかった。
 俺は、安上がりに出来ている!


 そう、心が動いたら、ためらわずに行動しよう。

 いざ!

   


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