私がかつて在籍した立教大学体育会拳法部では、先輩を「OO先輩」「XX先輩」と先輩付けで呼ぶ習慣があった。 しかし、一級後輩の俺達は、同期だけで諸先輩の居ない所では「熊ちゃん」と呼ぶ事が良くあった。 「熊ちゃんがよー」 「熊ちゃんがナー」 熊倉彰弘。享年多分50歳。 昨日、国分寺市の東福寺で告別式。 二浪の一級上の先輩だから、俺より三つ上のはずだ。 「熊倉さんがよー・・・・・」 いつも気丈な同期の菅沼が、見舞った先から暗い声でワイルドバンチに電話を掛けてきた。 そして店に来た。 「―――医者の話じゃ、一週間位。・・・・もって一ヶ月らしいんだ・・・・・」 「―――元気な時とは、・・・もう顔が違うんだ・・・・・」 「―――意識がないんだ・・・・・」 「―――白血病なんだ・・・・・」 菅沼は卒業後も、熊ちゃんと同じ会社に就職したため、もう30年近い付き合いだ。 俺は、卒業後、熊ちゃんに殆ど会っていない。 翌日見舞いに行った。 菅沼の言う通りだった。 俺は声を掛けた。 反応は、殆どない。 だが意識レベルでは、俺を認識していると俺は感じ取った。 「エネルギーが、力が残っている限り、頑張ってくださいね」 「わざわざ来てくれたんだ、わりぃなぁ」」 明るい声が返ってきた。聞こえない会話。 十日程して亡くなった。 熊ちゃんのよく行く店で、熊ちゃんが居なくても熊ちゃんのキープボトルを飲んだ。 池袋で飲んじゃぁ、要町の熊ちゃんのアパートへ転がり込んだ。 ドンドンドンドン。 「せんぱぁ〜〜い、せんぱぁ〜〜〜〜い!」 不在の時でも、戸を外してもぐりこんだ。 鍵を開けて自分のアパートに帰ってきた熊ちゃんは、 「うわぁ〜〜!!お前らどうやって入ったんだ〜〜〜〜????」 勉強なんて殆どしない俺とは違い理学部の熊ちゃんは、夜中勉強していた。 寝ている俺達を起こさないように、小さいスタンド光で勉強していた。 酒好きの熊ちゃんは、後輩によく酒を飲ませてくれた。 しらふの後輩には厳しかったが、酔っ払った後輩には、とても寛大だった。 熊ちゃんは・・・・・ 熊ちゃんは・・・・・ 心優しき熊ちゃんは・・・・・ 今遊びに行っても、快くアパートの扉を開けてくれるだろう。 ドンドンドンドン。 「せんぱぁ〜い!せんぱぁ〜〜〜い!!」 熊ちゃんに合掌。 |