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2003年12月12日(金)・「ネズミ小僧捕り物帳」
 先月の事である。
 家に帰ってきて、カミサンと居間で一杯やっていたときのこと。

 私の視界の片隅を、黒い物体が瞬間移動した。
 台所の廊下をササッと横切った。

「ねずみだ!」

 冷蔵庫の裏に入り込んだ。

 一体どこから入り込んだのだ。
 一体いつから我が家に存在しているのだ。
 許さん。
 わしは許さん。


「おのれ逃がして為るものか」
 私は焼酎を一気に飲み干すと、サッと立ち上がりゴキジェットを握った。
 そう、ゴキブリなら一発でしとめるアース製薬のヒット商品ゴキジェット
「ねずみ覚悟!」


 ねずみはゴキよりデカイ。数百倍デカイ。哺乳類だ。
 ゴキジェットは効くだろうか。
 ネズミジェットは、多分発売されていない。
 そんなもん発売されていたら、人間だって死んじゃうかもしれない。

 アース製薬の新製品、ヒトジェット1本二〇〇〇円。
 爆発的に売れるだろうな。
 俺なんか買い占めちゃうぞ。


 カミサンは無言で新聞紙を丸め、さあ出て来いネズミぶっ叩くぞとばかりに低く構える。
 俺はゴキジェットでネズミを追い詰める。
 阿吽の呼吸。

 冷蔵庫の両サイドにゴキジェット噴射!
 ・・・静寂。

 冷蔵庫の裏にゴキジェット噴射!
 ・・・・・静寂。

 冷蔵庫の下にゴキジェット噴射!
 ・・静寂。
 いや!
 ・・・ゴソ・・・ゴソゴソ・・・。
 確かにいるゾ。奴は今必死に息を我慢しているに違いない。
 俺は3分くらいなら息を我慢できる。
 昔は5分我慢できたが、今は衰えた。
 ネズミは潜水を何分出来るのだ?  ネズミは潜水出来ても、アワビやサザエはとれまい。
 俺は取れるぞ。

 冷蔵庫の下にゴキジェット噴射!
 ガサ・・・ゴソ・・・。

 もうすぐ飛び出すな。
 カミサンと目で合図。
 うなずくカミサン。

 再度、冷蔵庫脇からゴキジェット噴射!
 噴射!
 噴射!

 出た!!
 ネズミが飛び出した!!
 カミサンのいるほうに向かって走った!!!

 よし、作戦通りだ。
 叩け!
 カミサンは隙の無い低い体勢で待ち構えているぞ。
 今だ!!


 しかし・・・・カミサンは動かなかった。
 微動だにしなかった。
 隙の無い構えを崩すことなく固まっていた。
 ネズミは、カミサンの目の前を通って、隣の部屋に逃げ込んだ。

 確かにネズミの動きは速かった。

「何で叩かないんだ」
「―――怖かった」




つづく            


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