インターネットは凄いな。 先月20数年あっていない奴からメールが来た。メールをくれないまでも俺のページの存在を知っている奴はまだまだいるかもしれないな。 長野で教師を教えているIからだった。 子供ではなく教師を教える立場だ。 日本にそんな教師を教えるシステムがあるとは知らなかった。多分研修といわれているものだろう。 物静かな奴だったが芯の強い奴だった。今もそんな生き方をしているようだ。奴も頑張って生きている事に間違いない。 人間死ぬまで学習だ、修行だ、勉強だ。 教えてくれる人がいるということは良い事だ。 自分で学ぶことを教わればもう何も教わらなくていいはずなのだが、人間とは不完全なのだな。 何事も謙虚に学ぶ姿勢が大切だな。 なんて、その時だけは思うんだ。 2ヶ月程前、皮膚科に行った。 私と同い年くらいの女医さんがやっている皮膚科だ。 今までそこに行った事は無い。 ここ一年くらい爪の白い部分、つまり爪が伸びてくると切る部分がどんどん下がっていく。 このまま下がり続けたら爪が無くなってしまうのではないか、と心配になり皮膚科に行った。 診断は、洗剤による障害だった。 年齢から来るもの、栄養障害等から来るものでは無い。 洗剤により爪と皮膚の間の水分や油分が落ちてしまい、爪が浮いてきてしまうものらしい。 飲食業や、主婦などに見られる事があるとの事。 女医さんはしばらく私の爪先を眺めて状況を説明した後、 「アロンアルファを爪と皮膚の間に塗りなさい」 「はぁ!?」 「文房具屋で売ってるでしょ」 「瞬間接着剤の?」 「そう」 「あんなのを?」 「あれで爪と皮膚をくっ付けるの」 「はぁ」 「そうすれば、洗剤も入りにくいから」 「はい、分かりました。アロンアルファですね」 「そっ。ではお大事に」 アロンアルファねぇ。 ふーん、そういうものなのか。 この間約5分。 支払った診察代1500円。 医者は儲かる。 ところでこの2ヶ月間疑問に思っていたことの謎がやっと解けた。 疑問は女医さんである。 その表情である。 その表情に隠された真実とは何か。 この2ヶ月間私は一睡もせずにその謎と戦い続けて来た。 それは、私が皮膚科の玄関を開けた時の事。 ほぼ同時に診察室のドアが開き患者さんが出て来た。その向こうに女医さん。 私と目が合ったとき女医さんは、なんとも言えない複雑な表情をチラッと見せた。 診察室のドアがパタンと閉まりそれは一瞬で遮断された。 そのときは気にすることも無く受付を済ませ待合室の椅子に座って待っていた。 周りにはお客さん。あえて患者といわない。 腕に大きなやけどのような跡がある人。 顔が、かさかさの人。 全身ぶつぶつの子供。etc. 一体あの表情は何だったのか。 なぜか気にかかるあの表情。 2ヶ月もの間一睡もせずに疲労の限界に達していた私は、昨日ハタとひらめいた。 あの表情の理由。 そうだ!これだ!! 女医さんは私を「陰金田虫」の患者だと思ったのだ。そうに違いない。 そうカタカナで書くと「インキンタムシ」。 女医さんは私を見たとき心の中で、 「なんだ、見た目はどこも悪そうじゃないな。―――うっ、もしや!インキン!!まったく、もー。どうしました、見せてごらんなさいっていわなきゃいけないな。 太ももの辺りならいいけど、いきなりパンツ下ろされたらどうしよう。ほんとはインキンなんて無いのに変な露出狂かも知れない!! そうしたらどうしよう、どうやって上手くパンツを挙げさせたらいいんだろう。なんでもないですねなんて言ったら、先生もっとよく観てくださいなんて言って 近寄って来ちゃうかもしれない。どうしようどうしようどうしよう、やだなやだなやだな・・・でも逃げるわけにもいかないし」 と考えたに違いない。 だから私が診察室に入り椅子に座った時、女医さんはかなり緊張した顔に平静を装い、険しい顔で 「どうしました」 と言ったのだ。 そして私が、 「先生、爪がですねぇ」 と言ったその瞬間平静を保ちつつ、アーーー良かったという表情を見せたのだ。 そうだそうに違いない。 これは女医さんならではの悩みかもしれない。 俺の考えは絶対に合っている。俺には確信がある。根拠は無い。 強いて言うなら、俺がそう思ったからそうなのだ。 俺は露出狂の疑いをかけられていたのだ。何ということだ。 伊達に俳優として人間観察が習慣化しているのではないぞ。俺にはわかる。 2ヶ月もかかってしまったが、あの女医さんの表情の謎が今解けた。 疑われたのはちょっと引っ掛かるところだが、私の心の中のモヤモヤがひとつ晴れ今私はスッキリしている。 わっはっはっはっ。 |