文字通り、そいつは風と共に来た。 強烈な臭いを伴って・・・。 一ヶ月ほど前、私のお店「良久」での事。 土曜日の開店前の午後4時30分頃、ドアのガラス越しに外から店を覗く一人の男。年の頃なら30歳ちょっと。 黒ぶちめがねに、妙な長髪、だぶだぶズボン。 何かと思い私はドアを開けた。 ビルの空調ダクトが、かなり強く部屋内の空気を吸い上げているため、気圧の関係でドアを開けると一気に空気が店に流れ込んでくる。 その一陣の空気の流れに乗って物凄い臭いが店に入ってきた。男はそこで笑ってる。 「あのー、すいませんけど・・・」 うわっ!何の臭いだ?? 答えを迷うことはない。 その人物の体臭である。 新宿によくいたホームレスの人の匂いといおうか、4週間ぐらい風呂に入らないときの私の匂いといおうか・・・。いや、私はちゃんと風呂に入っている。 生物兵器か毒ガスか、はたまたサリンかVXガスか。 とにかくフケの強烈臭爆弾だ。 男は、ニコニコ笑ってる。 ニコニコと笑いながら 「あのーすみませんけど、今度の金曜日に予約したいんですけど、、、」 (なにーーーーーーーーーっ、この臭いでかっ!) 「予約ですか、ありがとうございます。何名さまでしょうか?」 「8〜10人で・・・」 (まさか、来るやつみんな同じ臭いじゃないだろうな〜〜〜〜〜〜〜っ。来るときは風呂に入ってからだろうな〜〜〜っ) 「一人5千円くらいで、出来ますか?」 (で、で、で、できるけど、、、) 「はい」 「じゃあ、お願いします。」 (こうゆうときは、どーーーーしたらいーーのーー、誰かおせーーてーーーーーーーーー。) 「かしこまりました。、ありがとうございます。何時からでしょうか?」 「エーー、7時くらいからで」 (やっぱり、本気だ〜〜〜〜。) 「お名前と、お電話番号をお願いいたします。」 「OOといいます。048-***−****です」 (この臭いで突っ込んできたら、予約といえど断るしかねーかもしれない。そのときは何ていったらいいのだろう) 一連の予約の話を進めるが、この男かなり調子がいい事を言う。 「みんなたくさん飲みますから」 「前来たとき美味しかったので、これからも頻繁に使わせていただきますから」 「とりあえず明日、下見で4人できますから、席とっておいてください」 「地酒もがんがん行きますから 」 以前店に来ていれば、この強烈なキャラクターなら忘れるわけはない。 以前店に来ていれば、うちに地酒は置いていないのを知っているはずだ。 やぁーーっぱりおかしいよな。 そう、この男は、独特の空気を持っているのだ。ただ単に臭いだけではない。 私は、私の店では一度もないが、無銭飲食を何度か経験している。(勿論私がやったのではない。見ていたのだ) そのときの人間の持っていた空気にそっくりなのだ。 うーーーむ、あやしい・・・・が・・・・なんともいい辛く、心の中で打開策を探すも見つからず。 男は来週の予約を入れて帰っていった。明日も何人かで来ますといって。 それ以上何もない。 腑に落ちない、不安、だがどうしようもない。 10分ほどして来たカミサンにこの話をする。 「予約が入ったんだけど、あやしいんだよなー」 「なにが?」 「とにかく、くせえんだよ」 「どこが?」 「からだが、いやなんとなく全部」 「どんな風に?」 「ま、こういっちゃ悪いんだけど、ホームレスみたいな臭いだし、、、前見た無銭のおっさんと雰囲気もにてるしな、、、。」 「あーー。そういうタイプね」 うちのカミサンもそういうのには鼻が利く。 しかし、予約を受けてしまったし、、、でも、他のお客さんの迷惑になるくらい臭かったらことわるしかないか、、、。 小一時間後、さっきの男が再び来た。 「すみません」 (やっぱり、風と共に臭い) 「あ、先ほどはどうも、、」 「実はですね、今ちょっと前に8千円ほど入っていた財布を落としてしまいまして、、、」 「はぁ」 「店長さんに、交通費をお借りできたらと思いまして、、、」 「は?」 「大宮までの片道の交通費でもお借りできないでしょうか。さもないと歩いて大宮まで帰らなければならないので、、、」 (そーゆー事かい) 「ちょっとそれは出来ないですけど」 「明日お返ししますから」 「レジのお金は勝手にいじれないものですから」 「――――― 判りました、すみません」 男は帰っていった。 男の目的は、やはりまともな狙いではなかった。 勿論翌日も店に現れることなく、予約当日も姿を見せなかった。 予約の当日が過ぎるまで、来ないとは判っていてもいやな気持ちでした。 不景気の世の中、いろいろなことを考え付き、人の弱点や盲点をほじくるような輩が増えるのでしょうか。 未遂に終わったとはいえ、不況ですこしでもお客が欲しい店の弱みに付け込もうとする、非常に不愉快な手口でした。 |