トップ・ページ一覧前ページ次ページ


2006年11月16日(木)・「伝統芸能な一日」
 五反田まで徒歩。
 五反田から山手線に乗り、新宿下車。
 久々に新宿末広亭、夜の部突撃。

 20代前半から30台中頃まで、よく寄席に行った。新宿、上野、浅草、池袋、国立、そのほかホール落語。
 どれくらい行ったかと言うと、常連と言うには全然少ないが、舞台の上の噺家や芸人さんが、
「ん、この人今日も来た」
「ん、この人ここにもくるんだ」
という顔をする位。
 時々客席から、
「よっ!待ってました!!」
と声を掛ける位。(ちなみに歌舞伎では声を掛けた事はない)

 以前はよく、昼の部、夜の部ぶっ通しで聴いたものである。
 お昼の12時前から夜の9時過ぎまで。勉強とは苦痛も伴う。そう、落語は私の趣味と勉強の両面を兼ね備える。

【11月中席・夜の部プログラム】(何人か代演あり)
落 語  金 原 亭 馬 治
漫 才  東 た か し・京 二
落 語  古 今 亭 志 ん 八
落 語  吉 原 朝 馬
奇 術  花 島 世 津 子
落 語  春 風 亭 一 朝
落 語  橘 家 二 三 蔵
アコーディオン漫談  近 藤 志 げ る
落 語  桂 南 喬
落 語  古 今 亭 円 菊
- お 仲 入 り -
落 語  古 今 亭 菊 丸
漫 才  大 空 遊 平・か ほ り
落 語  古 今 亭 志 ん 駒
落 語  柳 家 権 太 楼
太 神 楽 翁家和楽社中
主 任  古 今 亭 志 ん 五

 久々の演芸ライブは、とても良かった。
 末広亭の椅子が、新しくなっている!
 演者は久々に行ったにもかかわらず偶然、殆どが観た事ある人。中には私の顔を記憶しているような表情を浮かべた人も複数居た。真偽の程はよくわからない。私はいつも一番前か2列目に座る。
 偉そうに言うわけではないが、皆キャリアを積み芸に磨きがかかっている。5年、10年時間を置いて見るとその変化が良くわかる。皆素晴らしくなっている。
 若さから上手さへ、上手さから厚みへ、厚みから円熟へ、円熟から枯れへ、芸というものは死ぬまで進化し続けるものなのだなぁと思う。
 ふと、自分は、どうだろうなどと考えてしまう。落語家や芸人さんほど努力をしているだろうか。

 個々に対する感想を並べると、凄ーーーーーーく長くなるので辞めとく。

 そういえば、かつて東富士夫さんと言う高齢の曲芸師が居たが、まだ元気だろうか?
 私は、師の枯れた曲芸が大好きだった。


 複数の噺家がマクラで、
「今日は、酉の市で花園神社は人がいっぱいですねぇ」
などとと言う。
(むむっ、これは行かずばなるまい)
 私には、行かねばならぬ理由がある。
 末広亭から徒歩5分花園神社。

 トリの古今亭志ん五師匠の「妾馬(めかんま)」を最後に席亭を後にする、午後9時10分。


 目標ぉーーー花園神社ぁ、酉の市ぃ、突撃ぃーーーーーーーっ!
 タッタラッタラッタラー、タッタラッタラッタラー!
 本日2回目の突撃敢行。
 私の目的は、酉の市の熊手などではない。増してや、たこ焼きや焼き鳥やべビーカステラや焼きそば等の縁日の出店でもない。
 いや!出店の一種だ。
 入り口から雑踏を掻き分け掻き分け進む。

 邪魔だぁ、どけどけ!
 オラオラオラオラァーーーッ。
 オッと御免よ!!
 どけどけどけどけぃ!!!

 いつもだったらすっからかんの境内に、所狭しと熊手を売るテキヤが並ぶ、自分の組の提灯をぶら下げてテキヤが並ぶ。
 それを取り囲むように縁日の屋台がぎっしり。
 さらにその隙間を埋める様に、人人人。

 あれ?
 おかしい!?
 無いぞ!
 無い。
 無い無い無い無い!
 いつもだったらあるはずの場所に、例年だったらあるはずの場所に、無い無い無い無い、無い無い無い。
 茫然自失。
 私は、人ごみで埋め尽くされた境内をさ迷った。

 熊手お買い上げーーーーー、
「ヨーォッ、シャンシャンシャン!シャンシャンシャン!シャシャシャン、シャン!ありがとーございましたー」
の手締めがあちこちで聞こえる中、
「無い無い無い!無い無い無い!無無無い無い!なんでなんダヨー」

 今年は無いのか・・・・。
 諦めて神社を後にしようかと思ったその時、

「!!!!!!!!!!」

 発見!!
 あったーーーーーーーーーーーー!!!
 前方2時の方向に目的の出店出現。

 そう、その出店とはジャジャーン
「見・世・物・小・屋」
 これこそが私が行かねばならない、来なければならなかった最大にして唯一の理由である。

 私は神社に、いつもと違う逆の入り口から入っていた。だから、いつもの場所と思った所にあるわけ無かった。全然違う場所を、いつもの所だと思い込んでいた。
 しかし、しかぁし苦節10分、ありましたよありましたよ。例年の、いつもの位置にいつもの場所に、いつもと変わらぬその場所に、今日も今日とて「見世物小屋」

 日本にあと2軒しか残っていないと言う「見世物小屋」
 滅び行く日本のB級伝統芸能「見世物小屋」、おっとB級なんて失礼な事を言ってはいけない。
 話でしか聴いたことのない「見世物小屋」
 いつ何処に現れるのか予測不可能な「見世物小屋」
 しかし私は、数年前に突き止めた。
 花園神社の酉の市には毎年来ると。
 しかし、何度かの私のチャレンジを拒んできた「見世物小屋」
 ある時は時間が無く、またある時はあまりの行列の凄さに押し返され、私は「見世物小屋」に入った事が無かった。
 しかし、今日、遂に、その時が、やってきたのである。
 今日が、二の酉なんてことは全く知らなかったが、偶然にも寄席芸人さん達に教えられ遂に、遂に、やってきたのでありますよ。

 単独行動という、身軽さが良かったのかもしれない。
 ゲリラ戦なら任しとけ。


「はーい、みなさん、寄ってらっしゃい観てらっしゃい。親の因果が子に報い、生まれてきたのがヘビ女ぁ〜〜〜〜」
と言うような、私のイメージの中にある呼び込みはしていなかった。
 今は、希少価値を訴えて、
「ハイ、見世物小屋は、うちだけだよー。最後の2軒のうち一軒が辞めちゃうから、もううちだけだよ〜〜〜」

 昔の見世物小屋は、奇形の人間に芸をさせて見世物にしたりした時代もあったと言うが、今そんなことをしたらぶっ叩かれてしまうな。
 河童男、ヘビ女、一つ目小僧、ろくろっ首他いろいろなスターが、もっともらしく居て、その一座一座によっていろいろ特色があったらしい。

 今日初めて入った見世物小屋は時代に合わせてかかなりソフトで、ネタなんかバレバレの奇術とかを、やり手ばーさんの喋りを聴きながら笑って観るといった感じ。
 しかし私の隣には、全身アトピーと言おうか、瘡だらけの、一昔前ならそのまま見世物小屋のスターになれそうな奴が居たり、べろべろに酔っ払ったオッサンが居たり、ずーっと目を瞑っている女の子が居たり、写真を撮って怒られる外人が居たり、ホンわか怪しいムード満点。
 ”プチ・サーカス”と言おうか、”なんチャって・大サーカス”と言おうか、”似非末広亭”と言おうか、なんと言おうか・・・・・。


「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。御代は、観てのお帰りよぉー」
 大人 八百円
 子供 五百円
 幼児 三百円

 鳴り物が響く。
 ドンドンドンドン、ドドドンドン。

「ハーイ、始まるよ始まるよー」

 そして出し物は、
・ヘビ喰い女―――女がヘビを喰う
・火吹き女―――女が火を吹く
・鼻鎖女―――女が鼻から鎖を通し、水の張ったバケツを持ち上げる
・大マジック―――ヘビがガラスをすり抜ける
・双頭の生き物のミイラ―――海外からも取材に来た謎のミイラ
・ヘビ女―――箱の中からヘビ女が現れる
・大蛇―――大きいヘビ
・ヘビの皮―――脱皮ヘビの抜け殻をちぎって配る

 出し物のタイトルを見ると、ナント胡散臭い事か。
 ちなみに上記の演目タイトルは、見世物小屋が言っているのではなく私が付けたタイトルです。
 しかし、きっと観たくなるものばかりだと思う。

 さあさ、そこは観てのお楽しみぃ〜〜〜〜。
 ドンドンドンドンドンドン。

 しかしこれだけは言っておこう、
「一度は見る価値がある」
 私は、チャンスがあれば、また行くだろう。



 今日私は図らずも、人生の目的の一つ「見世物小屋見物」を達成したのである。

 胡散臭いと言われ様が、これはこれで良いではないか。
 決して人間国宝や無形文化財にはならないだろうが良いではないか!
 この良い加減さ!
 河童男は居ないのか!?
 次は、ろくろっ首を出してくれ!

 そして誰が何と言おうと、見世物小屋に対する私の位置付けは、こんなことを言っちゃあ失礼かもしれませんが、

「滅び行く日本の伝統芸能」

なのであります。



 今日は、日本の伝統芸能三昧な一日だった。
 満足、満足。



 ところで話は飛んで末広亭に戻るが、アコーディオン漫談の近藤志げるさん。
 私の顔を認識していると思われた、近藤さん。
 ちょっと気になる、近藤さん。
 何で気になるかと言えば・・・・・。

 六大学をネタに校歌を歌う。
 早稲田、慶応、法政、立教、明治、東大。
 皆さびの所だけなのだが、何故か立教の校歌だけフルコーラス歌う。おまけに第2応援歌まで歌いだす。
「センポール、シャンシャン、センポールシャン・・・♪♪」
そして、
「立教だけ、フルコーラスなのには、ちょっとわけがあるんです」
何だろう?

 そして東大校歌をうたう時、
「おーいら岬のぉー、とぉだいもぉりぃはぁー・・・♪♪」
で、笑いをドッカン引き出す。
 だが、その理由やオチを言わない。

 昔、流しをやっていた頃の話などをアコーディオンのメロディに乗せて語る近藤さん。
 そして引っ込む。

 立教だけフルコーラスと第二応援歌。何故だこの意味。他の学校は、サビと言おうか、さわりだけなのに・・・。
 理由があるといったのに、最後までこのことに関してはふれずに終わってしまった。
 なんだよ、わけを言わずに引っ込むなんて、ずるいぞ。
 気になるじゃないか・・・・・しかし、引っ込んでしまった。

 前から2列目でふんぞり返って見ていた俺を舞台上から認識した近藤さん。確実に俺が来たのを認識していたと思う。
(お、こいつ久しぶりに来たな)


 私は、帰宅してからハタと思いついた!

「立教だけ、フルコーラスなのには、ちょっとわけがあるんです」
と言った、そのわけを。

 そうか!

(俺は、おまえのこと知ってるんだからなぁ)
(ふふふ、びっくりするなよぉ)
(お前に、このシャレは分かるかなぁ)
(一人にしか通じないシャレなんて、大サービスなんだからなぁ)
(わかんねぇだろうなぁ)

 そうか、そうか、きっとそうだ。
 近藤さんは俺のホームページをチェックしていて俺が何者か知っていたのだ!
 きっとそうに違いない。
 そうだそうだ、絶対そうだ。
 違っていても、そうだ!
 俺は決めた。
 だから私の母校立教の校歌を全部唄ってくれたのだ。

 私の妄想は留まる処を知らない。

 いつか会ったら聞いてみよう。
「立教だけ、フルコーラスなのには、ちょっとわけがあるんです」
と言った、そのわけを。



トップ・ページ一覧前ページ次ページ