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「なんちゃって世界一」(2001.12)
 私は、かつて・・・そう、いつの頃だったか今となっては定かでは無いが・・・世界最強だった。
 30歳前後の1年間くらい私は、自称世界最強の男だった。
 今振り返れば、こんな危険な思想は無い。思想というか思い込みだ。
 体だってそんなに大きい方では無いのに、よく無事にここまで生きてこれたものだ。

 リングに上がって戦うとか、土俵に上がるとかそんなことを考えた事は無い。
 ルールの有る場所に行けば、普段からその競技を一生懸命練習している人に敵う訳は無い。

 私は街場における徒手格闘において、絶対の自信を持っていたのだ。
 そして、ある程度の実績も積んでいた。
 具体的な話は、一方的な自慢話だったり、えげつないところも多々あるので、やめておく。

(最強だった理由その一)
 日本拳法をやっていた。
 日本拳法は、総合格闘技と呼ばれるものにかなり通じる競技です。

(最強だった理由その二)
 殺陣、アクションをやっていた。
 俳優として、殺陣、アクションを勉強した事は、コンクリート上における受身や身の処し方などが上手くなった。
 そして、狭いセットの中で立ち回りを行う事は、壁と自分との距離、家具やカメラやライトの位置など、周りに在るものと自分の位置関係を正確に知らなければならなかった。
 これは、街場のファイトにはかなり重要なポイントであった。
 ビルの壁まで何メートルとか、ガードレールはどっちだとか、あそこにごみ箱があるとか、周りに何人いるとか、瞬時に把握する習慣が身についていた。

(最強だった理由その三)
 無鉄砲だった。
 ヤクザ、チンピラ、プロスポーツマン、武道家他、何でも来い!
 という、危険な思想を持っていた。

(最強だった理由その四)
 汚かった。
 喧嘩は、スポーツではありません。

(最強だった理由その5)
 臆病だった。
 臆病ゆえに、危険回避する本能が強い。
 喧嘩の基本は、逃げにあり。
 しかし、引いてはいけない時もある。
 そんな時人間は、”窮鼠猫を噛む”状態になる。

(最強だった理由その6)
 相打ちねらい。
 決して自分が綺麗に勝とうとは思わなかった。
 常にやられる覚悟で、前に出た。
 街場の戦いと言うものは、相手もこっちをぶっ飛ばしにくる。全力もしくはそれ以上の気迫とパワーで、やっつけに来る。
 だからこんなに恐ろしい事は無い。
 こっちも怖いから、フルパワーで対抗する。
 その結果短時間で終わっている。というパターンが多かった。


 通算成績 30〜40戦位無敗。(自称世界最強をやめた後を含む)
 対戦相手は、チンピラ、ヤクザ、プロレスラー、プロボクサー、空手?ラガーマン、サラリーマン他。
 ラストファイト(39歳の時) 対10回戦ボクサー。

 唯一、私の顔面までパンチが届いたのは、最後のボクサーだけでした。
 無敗の私ですが、このことで自分の衰えを感じた。
 もう、ストリート・ファイトは、やらん。
 逃げる!(いつもそう思っているのだが・・・)


 自称世界最強をやめた理由

 ある日の事でした。
 友人数人と飲んで、六本木の路上にいた時の事です。
 50メートル程先のビルから、お相撲さんご一行が出てきました。
 中心にいる関取は、一人でその辺の空気を全部吸い込みそうな雰囲気の男です。
 タニマチらしき人たちと出てきて、付き人も3人ほど従えていました。
 大挙してこっちの方に歩いてきます。
 私は、「お前らどけと」言わんばかりの態度を取られたら、そのお相撲さんを、ぶっ飛ばすつもりになっていました。
 
 しかし、そのお相撲さんは、なんともいえない強大なオーラを発し、その辺の空気を独り占めして吸い込みながら、歩きすぎていきました。
 私はその姿に、知らぬうちに引き込まれるように見とれ、
「ほ・・・ほしだ・・・・」
 と、つぶやいていました。

 そのお相撲さんは、後の横綱・北勝海、当時小兵の関脇・突貫小僧の「保志」関(現・八角親方)でした。

 私は、後姿を見送りながら、ハッと我に返り
「小兵の保志って、小さくねえよな・・・でけぇよな・・・ドラム缶みたいだな」
 と、ぶつぶつ言っていました。


 この日この時以来、私は世界最強は、やめといたほうがいいかな、、、うん、やめとこう。と思うようになり自称世界最強はやめました。

 関脇であの迫力なら横綱なんてどうなっちゃうの!!!

 一気に横綱まで駆け上がった男の勢いとは物凄いもので、私の闘志などはかき消され思わず見とれてしまう程のものでした。


 相手の記憶の隅にも残っていない、私の「六本木保志ニアミス事件」。これが私が自称世界最強をやめた理由です。

 しかし敢えて私は、言おう。
 保志関とすれ違う前の1年間くらい、人が何と言おうと私は、世界最強のストリート・ファイターだった。そう信じていた。
 そう、世界最強の・・・・世界一の・・・・なんちゃって。
  


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