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2008年08月24日(日)・「久々披露宴」
 いろいろな形で行われる結婚披露宴。
 私がこの披露宴で一番好きなシーンは、最後に親族を代表して行われる新郎父親の挨拶である。
 饒舌に話す父親、朴訥と語る父親、時として緊張のあまり言葉を忘れ笑いを誘い、また一生懸命話す姿は涙を誘う。

 しかし、友人達が結婚する時、私はそう思いつつも、
(本人達が主役だ)
(本人と友人達が楽しいのが一番だ)
と思ってはしゃいでいた。

 今日の昼、久々に披露宴に出席した。
 私の友人知人達の結婚ラッシュは、もうトウの昔に終わっており披露宴に出席するのは十年ぶり位になると思う、いやそれ以上か。
 時は経過し人は年齢を重ねるわけで、何と初めて友人ではなく、知人であり恩人である方のお嬢さんの結婚披露宴に出席した。
(俺も、年をとってきたんダナァ)
 などと妙なところに気持ちが寄り道をする。

 そしてさらに感じた事は、私の気持ちが親御さん達の側に変化していること。
 かつての私のように、
(本人達が主役だ)
(本人と友人達が楽しいのが一番だ)
と思ってはしゃいでいる若者を見守るような気持ちで、披露宴を眺めていた。

 今回私は、新婦のご両親兄弟以外私の知人は居なかったので、テーブルに同席していた方達とあまり喋ることも無く、黙々と料理を食べ、ガブガブと酒を飲み、ひたすら披露宴を見詰めていた。

 隣の方達と上手く話す器用さを持たない私は酒量が増え、どんな間抜けな動物も掛らないような披露宴の罠にガシッと絡め取られて行った。
 いつもならケッと笑い流してしまいそうな、会場側の用意するベタなコテコテの披露宴演出が、ぐいぐいと私の弱点を突いてくる。涙をこらえる。酒を一口。
 一生懸命ながらも仕事的に無機質に話す司会の言葉も、必要以上に汲み取ってしまう。涙をこらえる。酒をガブッと煽る。
 となりで新婦を幼い頃から知っている新婦父友人達の話す雑談に、グググと聞き入ってしまう。
「あいつは今日、一番嬉しくも一番寂しい日なんだ」
と新婦父を語る私より数段先輩の友人達。
 そんな会話がググっと胸を圧迫する。坂本九ちゃん、上を向いて歩こう。酒をガブガブ。


 最後に恒例の親族代表挨拶。
 新郎のお父様は、事情は分からぬがいらっしゃらない。
 新婦父が挨拶をする。
 支えるように外側に立つ新婦母。
 間に新郎新婦を挟み、新郎母。
 先ほどまで、
「小野ちゃん飲んでる?遠慮しないでよ」
などといいながらニコニコと各テーブルを回り笑顔と愛想を振りまいていた新婦父。

 真剣。
 真顔。
(あーーヤバイ)
その顔を見ただけで、私は危険ゾーンまで引き上げられた。
「本日は、お忙しい中・・・」
私は一言一句聞き漏らすまいと耳を傾ける。
 坂本九ちゃん、さらに上を向く。
 これ以上坂本九ちゃんが入ると、俺は後ろにこける。
 一言一句聞き漏らすまいと聞いていたのに、何を喋っていたのか記憶に無い。
 さっき私の隣に座る方が言っていた、
「あいつは今日、一番嬉しくも一番寂しい日なんだ」
の言葉が、私の中を駆け巡る。

「・・・・本日は、―――誠に・・*・&%#$”#%%”した」
 歪みかける顔をこらえる新婦父。
 となりで涙ぐむ新婦母。
 間で真剣な眼差しの新郎、涙ぐむ新婦。
 そのとなりで涙ぐむ新郎母。

 遂に私は、ナプキンで目を拭った。


 ご両親、新郎新婦のお見送りを受けながら、披露宴会場を退出。
 出口で、新郎のお母様が、
「有り難う御座いました」
新郎が、
「有り難う御座いました」
新婦が、
「あ!有り難う御座いました」
私の恩人、新婦の父が、
「小野ちゃん、ありがとね」
最後に、新婦のお母様が、
「小野さん、有り難う御座いました。ホントに・・・」


「おめでとう御座います」
の一言を掛けたかったが、口を開くことが出来なかった。口を開いたら、もう・・・・・堰を切ったように感情が洪水を起こしそうで・・・。

 口を真一文字に食いしばり、ひたすらお祝いの念を込めてお辞儀を繰り返し、私は帰っていった。

 無言で去った小野を、お許しくださいませ。
「本日は、誠におめでとう御座います」



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