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2007年08月12日(日)・「埴輪」
 よく見かける風景。
 電車内等で化粧をする、羞恥心と頭の足りないネーちゃん。
 私の大嫌いな光景。不愉快な光景。汚物、公衆面前化粧。

 しかしこの前、数日前、私は汚物を凝視観察してしまった。
 そして発見してしまった。
 まじまじと見ると・・・・・・・・意外と面白いショーだ。


 午前11時30分頃、動いている、空いている日比谷線車内。
 一つ置いた向こうの方のドアで乗った女性、年の頃なら28歳。
 車内を、俺方向に向かって歩いてくる。
(埴輪だ!)
 ファンデーションだけ塗って家を出てきたと推測。それとも電車到着前にホームで塗ったのだろうか。
 昔の大映映画「大魔神」を記憶の方なら思い出していただきたい。変身前の埴輪系大魔神顔。
 俺の目の前に座る。

 映画のタイトルにするなら、「大魔神、座る!」
 座るやいなや始まる化粧、「大魔神、化粧す!」

 きっと、映画の大魔神の怒り顔の様な、物凄いド派手メークをするに違いない。
 私の胸は、期待で膨らんだ。

 まずコンパクトと鉛筆を取り出しマユを描く、「大魔神、眉描く!」、「大魔神、眉下手!」
 コンパクトを見詰める眼差しは、真剣そのもの。周りを遮断する集中力。真正面に座り凝視する私の視線など気にもしない、「大魔神、集中す!」
 次に、アイシャドウを入れる、「大魔神、タヌキになる!」
 次に、マスカラ、「大魔神、くしゃみ手前の顔!」
 次に、目張りを入れる、「大魔神、クマが出来る!」
 次に、鼻の線にハイライト、「大魔神、鼻だけ外人!」

 ほお紅入れず。
 口紅差さず。
 ジーーーーーーーッとコンパクトを睨み付ける。納得顔。
 日比谷駅を通過する辺りで、化粧を終えバッグに全てをしまう。

(その化粧で、良いの?)
(それで完成なの?)
(おい!まだ変身は終わっていないんじゃないのか)
「大魔神、下半顔塗らず!」

(なんだよーーーーーーーーー!)
 メイクアップアーチスト小野は許さない。
 あの半端な顔は許さない。
(まだ変身は、終わっていないじゃないか)
 公衆の面前で堂々とメークするくせに、何だその中途半端顔。
 まだまだ怒り顔の変身大魔神には程遠いゾ。
 ストリーッパーが出てきて脱がずに引っ込むのと同じじゃないか。
(よし、とっ捉まえて特殊メークだ)
(・・・・いや、・・・あれが彼女にとっての完成形なんだ)
(―――――おい、・・・・・・その顔で良いのか?)
(ひどくはなれど、あなたの欠点を補っていないと思うのだが)
(・・・・・余計なお世話だよな・・・・・・)
(あなたの彼氏さえ、気に入ってくれれば良いんだよな)
(多分彼氏も無理だと思うけど・・・・・・彼氏居る?・・・・・あ、余計なお世話・・・・・・・・・)

 私がどう思おうと、埴輪の化粧は終わった、「大魔神、化粧やめる!」
 怒りの大魔神にはならなかった、「大魔神、変身せず!」
 埴輪は、銀座駅で降りていった、「大魔神、降りる!」

 怒り顔の大魔神に変身することも無く、派手さにも欠け、美しさになんか程遠い埴輪の完成形化粧。
 これが、一般的女性の公衆面前化粧の内容なのだろう。
 やっぱりそんな姿は人様に見せるものじゃないな、と思いつつ、金を取られない見世物としては楽しめる、という事を今日発見した。

 汚物を見ていると思うと不愉快だから、これからはタダの見世物を見てると思えば良いのか!!



 そして・・・・・・・・。
 多分、埴輪は忙しいランチタイムの中汗水たらしながら飲食店で働いているのだろう。
「いらっしゃいませ!」
「何名様ですか!」
「いらっしゃいませ」
「A定食二つ、B定食一つお願いします!」
「いらっしゃいませ!」
「有り難う御座いました!」
「いらっしゃいませ!」
「相席でお願い致します!」

 忙しさの中、埴輪は細い目が廻り、細い目が吊り上り、大魔神怒りの形相で働いている事だろう、「大魔神、怒る!」

 そうか!

 埴輪が大魔神に変身するためには化粧なんか要らないんだ!
 内面から変化すれば良いんだ!


 そう、やっぱり女性の顔は化粧ではなく内面なのですな。
 一番の化粧は、内面を磨く事と見つけたり。


 あ、これ男も一緒だな。


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