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2003年04月21日(月)・「風と共に来た」
 文字通り、そいつは風と共に来た。
 強烈な臭いを伴って・・・。
 
 一ヶ月ほど前、私のお店「良久」での事。
 
 土曜日の開店前の午後4時30分頃、ドアのガラス越しに外から店を覗く一人の男。年の頃なら30歳ちょっと。
 黒ぶちめがねに、妙な長髪、だぶだぶズボン。
 何かと思い私はドアを開けた。
 
 ビルの空調ダクトが、かなり強く部屋内の空気を吸い上げているため、気圧の関係でドアを開けると一気に空気が店に流れ込んでくる。
 その一陣の空気の流れに乗って物凄い臭いが店に入ってきた。男はそこで笑ってる。
「あのー、すいませんけど・・・」
 
 うわっ!何の臭いだ??
 
 答えを迷うことはない。
 その人物の体臭である。
 
 新宿によくいたホームレスの人の匂いといおうか、4週間ぐらい風呂に入らないときの私の匂いといおうか・・・。いや、私はちゃんと風呂に入っている。
 生物兵器か毒ガスか、はたまたサリンかVXガスか。
 とにかくフケの強烈臭爆弾だ。
 
 男は、ニコニコ笑ってる。
 ニコニコと笑いながら
「あのーすみませんけど、今度の金曜日に予約したいんですけど、、、」
(なにーーーーーーーーーっ、この臭いでかっ!)
「予約ですか、ありがとうございます。何名さまでしょうか?」
「8〜10人で・・・」
(まさか、来るやつみんな同じ臭いじゃないだろうな〜〜〜〜〜〜〜っ。来るときは風呂に入ってからだろうな〜〜〜っ)
「一人5千円くらいで、出来ますか?」
(で、で、で、できるけど、、、)
「はい」
「じゃあ、お願いします。」
(こうゆうときは、どーーーーしたらいーーのーー、誰かおせーーてーーーーーーーーー。)
「かしこまりました。、ありがとうございます。何時からでしょうか?」
「エーー、7時くらいからで」
(やっぱり、本気だ〜〜〜〜。)
「お名前と、お電話番号をお願いいたします。」
「OOといいます。048-***−****です」
(この臭いで突っ込んできたら、予約といえど断るしかねーかもしれない。そのときは何ていったらいいのだろう)
 
 
 
 一連の予約の話を進めるが、この男かなり調子がいい事を言う。
「みんなたくさん飲みますから」
「前来たとき美味しかったので、これからも頻繁に使わせていただきますから」
「とりあえず明日、下見で4人できますから、席とっておいてください」
「地酒もがんがん行きますから 」
 
 以前店に来ていれば、この強烈なキャラクターなら忘れるわけはない。
 以前店に来ていれば、うちに地酒は置いていないのを知っているはずだ。
 やぁーーっぱりおかしいよな。
 
 そう、この男は、独特の空気を持っているのだ。ただ単に臭いだけではない。
 私は、私の店では一度もないが、無銭飲食を何度か経験している。(勿論私がやったのではない。見ていたのだ)
 そのときの人間の持っていた空気にそっくりなのだ。
 うーーーむ、あやしい・・・・が・・・・なんともいい辛く、心の中で打開策を探すも見つからず。
 
 男は来週の予約を入れて帰っていった。明日も何人かで来ますといって。
 それ以上何もない。
 腑に落ちない、不安、だがどうしようもない。
 

 10分ほどして来たカミサンにこの話をする。
「予約が入ったんだけど、あやしいんだよなー」
「なにが?」
「とにかく、くせえんだよ」
「どこが?」
「からだが、いやなんとなく全部」
「どんな風に?」
「ま、こういっちゃ悪いんだけど、ホームレスみたいな臭いだし、、、前見た無銭のおっさんと雰囲気もにてるしな、、、。」
「あーー。そういうタイプね」
 うちのカミサンもそういうのには鼻が利く。
 
 しかし、予約を受けてしまったし、、、でも、他のお客さんの迷惑になるくらい臭かったらことわるしかないか、、、。
 

 小一時間後、さっきの男が再び来た。
「すみません」
(やっぱり、風と共に臭い)
「あ、先ほどはどうも、、」
「実はですね、今ちょっと前に8千円ほど入っていた財布を落としてしまいまして、、、」
「はぁ」
「店長さんに、交通費をお借りできたらと思いまして、、、」
「は?」
「大宮までの片道の交通費でもお借りできないでしょうか。さもないと歩いて大宮まで帰らなければならないので、、、」
(そーゆー事かい)
「ちょっとそれは出来ないですけど」
「明日お返ししますから」
「レジのお金は勝手にいじれないものですから」
「――――― 判りました、すみません」
 
 男は帰っていった。
 男の目的は、やはりまともな狙いではなかった。
 勿論翌日も店に現れることなく、予約当日も姿を見せなかった。
 
 予約の当日が過ぎるまで、来ないとは判っていてもいやな気持ちでした。
 不景気の世の中、いろいろなことを考え付き、人の弱点や盲点をほじくるような輩が増えるのでしょうか。
 未遂に終わったとはいえ、不況ですこしでもお客が欲しい店の弱みに付け込もうとする、非常に不愉快な手口でした。
 
         


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