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「極めて個人的『新選組・夢のあと〜』始末記」(2004.08)
【其の1】08月27日

 今年の夏は、記録的猛暑で参った、参った。兎に角暑かった。暑いを通り越えて熱い、と表現しても過言ではない今夏。


 私は長い事、自分のお店「良久」に懸かりっきりで、芝居とは遠ざかっていた。
 たまに来るビデオとかの仕事をやるぐらいのもので、多分私の友人なんかも、小野は俳優活動は辞めたと思っている人間が沢山居ると思う。
 実際物理的には、殆どお好み焼き屋の親爺だ。
 いくら気持ちの中で俺は俳優だと言い張っても、それは俺だけの世界で人はそんなの認めない。
 それでも俺は吼え続ける。
「俺は俳優だ!」

 2004年8月20、21日の二日間、志道塾という俳優集団の公演「新選組・夢のあと」に土方歳三役で出演した。
 上演時間2時間40分という大作で、小屋も「調布グリーンホール・大ホール」という1301人も入る大劇場だ。

 志道塾はまだ団体としては若い。名前だけ聞くとどこかの右翼団体のようだが、そんなことは無い。
 創立5年くらいか。友人である太田行雄氏が創った立ち回り・殺陣を武器として活躍する俳優集団である。
 今回が4回目の公演。今までの上演作品も新選組を題材にしたものばかり。
 作・演出・製作を太田氏が一人で手がける。勿論、主演も。
 10年以上前の太田氏しか知らない人間にとっては、驚きだと思う。
 まだまだメジャーとは言えないが、その活動には目を見張るものがある。

 今回その太田氏から依頼があり、舞台に出演する事となった。


 舞台に出るのは何年ぶりだろう?
 ゆうに10年は越えているな。
 稽古に入る前、
「兎に角、皆の足を引っ張らないように」
「迷惑を掛けないように」
 こんな気持ちが私の心の中を占めていた。


 7月中旬から稽古に入った。
 現場感覚なんか殆どゼロに戻っているし、体重も増えているし、俳優として何もかも抜けてしまっているような気持ち。
 残っているのは、「俺は俳優だ」という根拠のない俺の叫び声だけ。

 ちなみに本番までに10kg体重を落とす予定だったが、7kgしか落とせなかった。
 昔は楽にコントロール出来た体重も、中々落とすことが出来ない。これも歳か。
 普段から節制してしていれば、こんな事せずにすむのだが。プロ失格。

 稽古をしながら、俳優細胞が目を覚ましてくるのが自分で分かる。だが、目を覚ますという事はやはり眠っているという事だな。
 本番までに何処まで自分を持っていくことが出来るか、不安だらけ。
 セリフの入りも悪く、自分の脳みそがかなり硬くなっていることを痛感。

 そんな、蔵の奥からほこりを被ったままで出てきたような俺だが、年齢を重ねたせいか、回りに大事に扱われてしまう。
 必死にやらにゃとんでもない事になると頑張るが、気持ちばかりが空回りしてイライラばかりが募る。

 この暑さに腹が立つ。のどの渇きに腹が立つ。汗臭い稽古着に腹が立つ。飛んでいる蚊に腹が立つ。家に送られて来る請求書に腹が立つ。訳の分からん売込み営業電話に腹が立つ。 電車の冷房が効きすぎていて腹が立つ。電車の冷房が全く効かず腹が立つ。スーパーのレジで小銭を中々出さない買い物オバちゃんに腹が立つ。マニュアル通りの言葉しか使わない居酒屋の店員に腹が立つ。  信号が青に変わったのに中々発進しない前の車に腹が立つ。雨の中傘をさして自転車に乗ってるやつに腹が立つ。俺より楽しそうにしているや奴に腹が立つ。俺より詰まらなそうにしている奴に腹が立つ。 俺と同じような間抜け面の奴に腹が立つ・・・・・・・・。
 そして何よりも一番自分に腹が立つ。
 
 イライラが募る毎日。
 悪戯に過ぎる日々。
 思い通りに為らない自分。

 遂には稽古の最終日、稽古中のセリフを勝手に変えて芝居中、
「やる気ねぇんじゃねえか!」
と怒鳴り散らしてしまった。
 その時はだらけた空気に対してワメイタつもりだったが、実は自分に対する怒りが一番でかかったのかもしれない。

 自分では、こんな状態ではいけないと思いつつも本番突入。
 頭の中を駆け巡るのは梅沢富雄氏の昔のヒット曲「夢芝居」。
 〜ケイコォブゥソクヲーマクワァマァタナイ・・・・・・・〜


 大きな事故も無く何とか公演終了。作品の評判も上々のようだ。
 しかしセリフを噛む事1回。俺的大事故だ。
 セリフを一言飛ばす事1回。観客にはわからないが、大事故だ。
 本番自己採点は20点。
 この20点は、自分がそこに存在したという事のために獲得した点数だ。
 それ以外は全然駄目。セリフを噛んだ時点でプロ失格。


 会場アンケート等の私に対する評判は、かなり良いらしい。
 しかし、有り難くはあるが素直に喜べない。
 一仕事終えた充実感、達成感は確かにあるものの、自己嫌悪感の方がハルかにデカイ。
 作品に対して、少しは貢献できたのだろうか。
 反省する事ばかり。

 個人的には、そんな思いばかりが募る公演だった。


 反省点ばかりが頭の中を駆け巡るが、これからは少し気持ちを切り替えて良かった点に目を向けていこう。
 そうしないと、心がまいっちまいますからね。

 近いうちに、その良かったという会場アンケートを読ませてもらおう。



【其の2】09月03日

 一昨日、志道塾に行って公演の会場アンケート(回収数約300)を読ませて貰った。

「石坂歳三が良かった」
「土方才三が良かった」
 なんじゃこりゃ。
 多分この人たちは、土方歳三が良かったと言いたかったのだろうと解釈する。
 こういう人も含めて私の演じた土方歳三は、かなり好意的に受け止められているようだ。
 ちょっと、ホッとした。

 作品自体の評価は、長いと言う感想は多々あったが面白いと言うのが大半を占めていた。
 細かい点については色々指摘があったが、総じて良しとするものが多かった。
 ま、こういうアンケートと言うのは、出演者やスタッフの身内や知り合いが書いてくれる場合が多いので、評価は良くて当たり前ではある。
 特に若い人たちは、友達を応援すると言った立場から身贔屓的評価が多い。有難くはあるが、少し差っ引いて受け止めるべきだ。
 ただ人間褒められるのは嬉しいもので、これが明日への活力に繋がる。
 しかし辛口評価が未来の自分の肥やしになるのも事実だ。

 土方歳三と私に対する評価。
 自己評価20点。
 これにめげることなく。

 土方歳三と私に対する評価。
 会場アンケート評価、良し。
 これに驕ること無く。

 これからも頑張っていこう。

 ところで志道塾の観客動員力をもっと上げねばイカンな。
 大劇場だったので、200〜300名の入りではパラパラなのだ。

総括

 ・作品は、長すぎると言われつつ内容的には合格と言って良い様だ。

 ・俺は、反省する事だらけ。妥協は許されない。

 ・若い共演者達は、皆パワーに溢れていて素晴らしい。今後が楽しみだ。プロ意識を持つだけで彼等は変わるだろう。

 ・客をもっと呼ぼう。プロデューサーと一緒に券を売る手を考えなくては。
 


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